6-4話「影の匂い、静けさの違和感」
6-4話「影の匂い、静けさの違和感」
村の宿、夜。
遺跡の調査依頼を終えた3人と1匹は、木造の一室で湯を飲んでいた。
疲労感はあったが、それ以上に、あの遺跡と、あの女の存在が空気に重さを加えていた。
「……セリア、だっけか。あの女」
ハルグが手元の湯をすすり、口を開く。
「なんか、妙じゃなかったか?」
レオは答えなかった。代わりに、メイリアが静かに言葉を継ぐ。
「外見は人間だけど、感覚的に――違う。あの人、普通の魔力をまとってなかった」
「戦ってる時の動きも、妙に軽くてな。ああいうのは、骨のつくりから違う気がする」
ハルグがうなるように言った。
「……ただ、それだけじゃない気がする」
レオが口を開いた。
「“彼女が”というより、“あの遺跡ごと”違ってたんだよ。空気も、壁も、文字も。……全部、何かに似てた」
「似てた?」
メイリアが顔を向ける。
「言葉にできないけど……俺、ああいう場所を夢で見たことがある気がして。現実じゃなくて、頭の奥に残ってる感じ」
ガルドが足元で身体を丸めていたが、レオの言葉にぴくりと耳を動かした。
「それに、セリアは――あの構造を“見慣れてる”ようだった」
メイリアが小さく頷く。
「私もそれ、思った。魔法陣でも宗教的でもないあの紋様を、彼女だけが迷わず触れてた」
「偶然か、それとも……」
ハルグが言いかけ、首を振った。
「仮に、あの女が遺跡の出どころを知ってたとしても、それを教える義理はねぇしな」
レオは湯の入った木椀を置いて、窓際に目をやった。
「……気になるんだ。ああいう遺跡、あの構造。何のために造られたのか。どうやって崩れず残ってるのか」
「興味あるのね」
メイリアがやや驚いたように言った。
「うん。……変な言い方だけど、あれを放っておいたら何か、大事なことを見逃す気がするんだ」
しばらく沈黙が落ちた。
「“昔の誰か”が、俺たちに何か残したって、そう思ったらさ。気になるだろ」
ハルグは苦笑した。
「へぇ、お前にしては難しいこと言うじゃねぇか」
「うるさいな」
言い合いながらも、空気は少し緩んだ。
ただ、ガルドだけはじっとレオの言葉を聞いていた。
その目には、どこか懐かしさ――いや、“知っている”という色がかすかにあった。
(セリア。あの女は遺跡を探している? それとも、あの中に“何か”を探していたのか)
レオの思考は静かに深まっていく。
あの遺跡が偶然なら、なぜあの女もそこにいたのか。
もし偶然でないなら――何が、この先をつないでいる?
レオは黙って湯を飲み干し、再び窓の外を見た。
夜の空は、雲に覆われ、星はひとつも見えなかった。