6-2話「交差する足音」
6-2話「交差する足音」
朝霧の残る森を抜け、陽が高く昇りきる頃。
3人と1匹のパーティは、次の目的地へと歩を進めていた。
今回の依頼は、隣村への荷馬車の護衛。
依頼主は老齢の農夫で、荷台には干し肉や保存穀物が積まれている。
「この道、よく通るけど、最近は騎獣の足跡も見かけるようになってねぇ」
御者席から老人が話しかけてくる。
「魔物じゃなくて、騎獣……?」
メイリアが眉をひそめる。
「おうよ。まるで誰かが飼い慣らしてるみたいな、でけえ足跡だ」
「人間の乗るモンか、魔族のか……どっちにしても嫌な予感だな」
ハルグが斧を担ぎながらぼそりとつぶやいた。
ガルドは馬車の後方を軽やかに歩き、時折森の匂いを確かめるように鼻をひくつかせていた。
レオはそんな姿を目の端にとらえつつ、前方の森道へと意識を集中していた。
***
「やあ、道を譲ってくれて助かる」
午後、峠道に差しかかった頃、前方から別の冒険者パーティがやってきた。
こちらも3人組。若い男たちで、それぞれ剣・弓・短杖を装備している。
「村まで護衛か? だったら正解だぜ。この辺、ちょっと前にでかい魔物が出たらしいからな」
「誰かが片付けたって話、聞いたか?」
弓を背負った青年が話しかけてきた。
「……誰かって?」
レオが自然に問い返す。
「一人旅の女らしいよ。俺らも姿は見てないけど、村の子どもが“崖の上で銀髪の人が剣振ってた”って話してた」
「銀髪……」
レオは短く息を吐き、ほんの一瞬だけ視線を伏せる。
「印象的だな、それ」
ハルグが何気なく言ったが、レオの反応には気づいていない。
「名前は?」
「さあな。名乗りもしてないし、喋ってもなかったってさ。子どもが見ただけの話だしな」
冒険者たちは軽く手を振って、道の向こうに消えていった。
「……妙に黙ったな、お前」
ハルグが歩き出しながら、ぽつりと言う。
「……似た話を、少し前に聞いたことがあるだけだ」
レオの言葉に、それ以上の詮索はなかった。
だが、メイリアはちらと彼の横顔を見た。
そしてその視線の端で、ガルドが小さく鼻を鳴らすのを見逃さなかった。
***
村に着いたのは夕刻。
依頼は問題なく終わり、報酬を受け取ったあとは、宿の共同スペースに3人が集まっていた。
木造の机を囲み、各々が湯を飲みながら、今日の道のりを軽く振り返っていた。
「……見てた子どもが話を盛ったのか、ほんとに銀髪だったのか。どっちだろうな」
ハルグが天井を見上げながらぼそりと漏らす。
「どっちでもいい。助けられたことは確かなんでしょう」
メイリアは静かにカップを置き、レオに目を向ける。
「ただ……あんた、反応が早かった。似た人を知ってる?」
一拍の沈黙。
「……知ってるというより、気になってる人がいる。それだけだよ」
レオは答え、ガルドの耳がわずかにぴくりと動いた。
「ま、無理に聞く気はねぇ。人にはそれぞれ、過去ってのがあるしな」
ハルグが笑いながら立ち上がる。
「寝るわ。明日はまた歩きだしだしな」
ハルグが部屋を出た後、メイリアも立ち上がった。
「あなた、まだ少し……信用してないでしょ、私たちのこと」
「……そう見えるか?」
「ええ。でも、それでいいと思う。無理に繋がろうとしない方が、かえって自然なこともある」
メイリアはそれだけ言って、階段を上がっていった。
レオはひとり、窓際に立ち尽くした。
(信じる、か……)
胸の中に残った重さと向き合うように、静かに目を閉じた。
足元でガルドが体を丸め、まどろんでいた。
まるで――何かをずっと待っているかのように。