第12章 12-1《境界を越えて》
第12章 12-1《境界を越えて》
王都を出発して三日目。
レオたちは、北の山域に続く古い街道を進んでいた。道の両脇は崖と森に挟まれ、時折聞こえる魔物の唸り声が、周囲の空気をぴりつかせていた。
「……道が狭いな。これじゃ逃げ道がねえ」
ハルグが前を歩きながら、身をかがめる。
「襲ってくるやつがいなきゃいいけど」
ノアが手にした杖の先で地面を突きつつ、警戒を解かない。
ガルドは小さな姿でレオの隣を歩いていたが、その耳は周囲の音を逃さず拾っていた。
ふさふさとした尾が静かに揺れ、どこか緊張の色を含んでいた。
そして、少し後ろ。
セリアは黙って歩いていたが、その歩みが不意に止まった。
「……また、反応してる」
静かに言って、自分の手のひらを見つめる。
光だ。
わずかに、肌の下から淡い青い光が滲み出ていた。レオの“剣を創る力”に似た反応。
「レオ……この辺り、近いかもしれない。遺跡か、それとも――」
そのときだった。
森の奥から何かが跳ねる音、そして地面を揺らす衝撃。
バサッ──!
木々の影から飛び出してきたのは、武装した魔族の一団だった。
それぞれに異形の角、動物に近い耳や瞳を持つ。だが、言葉ははっきりと通じる。
「……人間か。先に進む気か?」
低く、だが明瞭な声。先頭の男は肩に刃を担ぎ、鋭い瞳でレオたちを見据える。
レオが前に出た。
「戦う気はない。道を通りたいだけだ」
「通らせるわけにはいかない」
即答だった。
「ここは《堕ちた地》。我らにとっては、まだ“聖域”なんだよ。人間どもが踏み荒らしていい場所じゃない」
後方からノアが呟く。「“堕ちた地”……?」
ハルグが剣の柄に手をかけると、魔族の後衛たちも武器を構えた。
張り詰める空気。
だが、その中で──セリアが一歩前に出た。
「……私たちは、ただ過去を知りたいだけ。戦うためじゃない。
でも、もし道を閉ざすなら……」
その手のひらが、静かに光を帯びた。
まるで、彼女自身が“境界の鍵”であるかのように。
魔族の先頭に立つ男が、眉をひそめた。
「お前……その力、どこで得た?」
「最初から持っていた。ただ、それが何かを知らなかっただけ」
沈黙。
その刹那、どこかで“警告音”のような電子的なノイズが、空間に走った。
レオの背の剣が、微かに共鳴する。
――そして空から、何かが見ている気配。
魔族の男が舌打ちする。「……今日のところは引け。だが、次はこうはいかんぞ」
彼らは森の奥へと消えていった。
静寂。
「……あれ、絶対に何か知ってたよな」ノアが口を開く。
「ああ。あいつら、“こっちの力”を見て何かに気づいてた」レオが呟いた。
セリアは手を見つめたまま言う。
「……この先にある遺跡。何か、私たち“両方の種族”に関わる真実がある気がする」
空を見上げたレオの目に、また微かに灯る赤い光が映った。
それは、誰にも気づかれない程度に小さく。
だが確実に、彼らの進む先を“監視している”。




