第二章 ― 森の再会 ―
第二章 ― 森の再会 ―
草が濡れていた。森の深く、ひんやりとした空気の中を、レオは慎重に進んでいた。
「次の街は……この森を抜ければいいんだったな」
旅に出て三日目。仲間探しどころか、道に迷ってしまい、森の中を彷徨っていた。
そして運が悪いことに、その日はついにゴブリンの群れと鉢合わせしてしまった。
「……っ、囲まれてる…!」
五体。レオは剣を構え、踏ん張る。が、相手は素早く、草陰を駆け回るように囲んできた。
「ぐっ……!」
一体のゴブリンの刃がレオの脇腹をかすめ、膝が沈む。
「やばい……このままじゃ……!」
そのときだった。
――ガアァァッ!!!
森の奥から、雷鳴のような唸り声が響いた。
突如、茂みを裂いて飛び出してきた巨大な獣が、一直線にゴブリンへ突っ込んだ。
牙と爪が閃き、ゴブリンたちは恐れをなして散り散りに逃げていく。
レオは目を見開いた。大きな体、灰色の毛、そして――その瞳には確かな知性が宿っていた。
しかし、戦いの中で一匹のゴブリンが最後に短剣を振るい、獣の脇腹を斬り裂いた。
「おい、大丈夫か……!」
レオは慌てて駆け寄り、傷口を手で押さえた。血がにじみ出る。
そのとき――不意に、頭の奥で何かがざわめいた。
(この感じ……どこかで……)
脈打つ血の感触、毛並みの温かさ、鼻先から聞こえる微かな呼吸――
目の前の傷ついた獣に手を当てている今、胸の奥が不思議な震えに包まれた。
(……あれ? これ……前にも……)
「なんで……こんな感覚が……」
レオは首を振った。思い出そうとしても、靄がかかったように思い出せない。
獣は静かに彼を見つめ返す。その瞳は、まるで「覚えているのは私の方だ」とでも言うようだった。
レオは、獣の頭をそっと撫でた。
「……ありがとうな。助かった」
傷口に自分の予備の布を巻いてやると、獣は少し目を細めてうなずいたように見えた。
「……ガルド。そんな気がする。お前の名前」
その名を聞いて、獣はゆっくりと尻尾を振った。
「よし。行こう、ガルド。街までは、もう少しだ」
横並びに歩き出す。
その一歩一歩が、再び始まる運命の予兆だった。