第一章 ― 違和感の種 ―
第一章 ― 違和感の種 ―
朝の光がゆっくりと山あいの村〈リュデル〉を包み込んでいた。石畳の上に朝露がきらきらと輝き、遠くから聞こえる鶏の声が村に生命を吹き込む。
十歳の少年、レオは広場の片隅で木剣を握りしめ、真剣な表情で素振りを繰り返していた。力強く振るうたびに、ほんの少しだけ汗が額を伝う。
「レオ、そろそろいいんじゃないか? パンが冷めるぞ」
幼なじみのユウが笑いながら声をかけるが、レオは振り返らずに、あと数回だけと心の中で呟いた。
村人たちは平和に暮らしている。だが、彼の胸の奥にはいつも小さな違和感があった。理由を言葉にできない何かが、彼を静かにざわつかせる。
「……おかしいな」
その感覚を口に出したことは一度もない。誰に話しても理解されないと知っているからだ。
夕暮れが近づき、空が茜色に染まる頃、遠くの森から不穏な気配が漂い始めた。
「魔族が近い。用心しろ」
村の大人たちが声を潜めて警戒する中、レオは剣をしっかりと握り締めた。胸の違和感は、いつしか確かな予感へと変わっていた。
(この世界は、何かが違う。でも、それが何かはまだわからない)
闇に包まれ始めた村の中で、少年の瞳だけが冷静に未来を見据えていた。