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第66話 俺、皇帝の真髄を見る


 バックストレッチから3コーナーに掛けてじわりじわりと先行組みとの距離が詰まって行く、俺が息を入れるタイミングと被るから仕方なし、短距離マイルならそれすらなく逃げ切ることもできるが今回は有馬記念他の馬の能力も考え力を溜める必要があるとひょろさんは決断した、俺はそのままでもイケますけど!?と思うけどひょろさんがそう考えるなら仕方ない。


 俺は先頭が好きだし当然1着が好きなのでこの後方から近付いて来る足音は好きじゃないんだよな、集団が多いほど大きな音になり威圧感も加わる。


 ただし全部が全部競争相手になるわけではない、いや一緒のレースを走るという意味なら全馬競争相手だけどな?

 その日の調子、仕上がり具合、馬場状態含めの適正、鞍上や調教師との相性、他馬との位置関係……それから単純な地力の差、この中山2500m(有馬記念)という舞台で篩に掛けられた一部の馬だけが先頭で走る俺を抜き去ろうと襲い掛かって来る。


 だが俺は並みの逃げ馬じゃない、もちろんG1出走している馬たちだ一流の逃げ馬との競走経験はあるだろう、でも今回の先頭をひた走る馬は超一流の逃げ馬ってわけ!

 3コーナーから4コーナーに掛けてより一層圧が増す、先行勢だけでなく差しと追込み、後方の馬たちが脚を使い馬群が縮まりひとつの塊のようになって直線へと向いて行く。


 『今日は自分が完全に勝たせて貰います!』


 『来やがったなソテ!!!』


 団子になる先行組みの中からいち早く抜け出し俺の斜め後方へとつけたのはソテだった、まあ想定通りだな前回は俺の問題で展開は違ったが問題無く走っていたら同じような状況になっていただろう、もっともその時は今回以上の馬身差があっただろうが。


 『今日は俺が勝つ!』


 『自分が!そしてハナさんを嫁に!』


 『それなら一層負けられねぇわ!!!!!!!』


 掛かる遠心力で膨らみソテと俺の間には空間が出来る、だがまだ問題ない今のところはソテのみ、他の馬はここで上がり切ったら今もっとも怖い馬……ティトゥスに纏めて食われると思っているのだろうと肌感でわかる。

 どこにいるんだか知らないが新馬戦でも感じたこの感覚は間違いなくティトゥスが発するもの、少しでも油断したらそこで勝敗が決まる。


 2度目のホームストレッチへと入る、残すは直線のみ、そこで馬たちが一斉に動き出した。

 ここをしのげば1着、ここで抜き去ったら1着、1着が無理でもせめて掲示板内、思惑が絡み合う最終直線。


 俺の脚色は充分、ただし超一流の末脚を持ったやつによーいドンで勝てないことはマルとの長い付き合いでわかり切ってるんだするわけがない。

 少しでも差をつけたままゴールまでの距離を縮めるように地を蹴る、ソテと鞍上が併せて来るが関係ない俺は最後まで自分の走りをするのみ、それをロメロは指示するし俺もそれ以外に道はないと確信する。


 『ハナさんを嫁に!』


 『誰がなるかよ!!!!』


 『ハナを嫁に貰うのは俺だ……!』


 残り100俺とソテの競り合いに物理的に割って入ったのは最早白馬といっても差し支えない馬体を持ったティトゥスだ!

 コーナーで膨らんだ俺とソテの間には1頭分の距離が生まれていた、芝が良いと言える最も内を狙い走る俺その外を走るソテ、後方から迫って来るのが他の馬なら問題なかった……しかし、やはり、ティトゥスだけは別格。


 今日は新馬戦の時とは異なりここで上がってきた事と俺の視界に入った情報から考えて恐らく作戦は差し、それでもその末脚はここまでを一息に、全てを飲み込む様に、ひときわ輝き駆け上がる。

 下げられた頭と地を滑るような他の馬よりも長い一完歩、新馬戦の時を思い出し同時にあの頃より遥かに完成された馬体と走りに脳内をちらつく敗北の文字。


 それでも負けられないんだ!!!!!!!!!


 最後の力を振り絞り前へ前へとロメロと一緒に駆ける、限界を越えろ、これまでの俺じゃこの馬に、ティトゥスに負ける!!!

 視界が狭まるような錯覚、全ての神経を、力を脚に伝えゴールへと突き進んだ。


 『俺は!負けねぇえええ!!!!!!』


 ソテは問題ない、俺を意識したのかティトゥスの末脚を見誤ったのか、仕掛け所が僅かに早かったのだろう半馬身は差がついている。


 ティトゥスとは……ほぼ横並び、新馬戦とは違う、あの時はなかった頭の上げ下げでの勝負だ頼むぜロメロ!!!!!!!!!!!!!!!


 俺の粘りか、ティトゥスの追い上げか、ゴールまでつかない決着はしかし時間にすれば一瞬の出来事として決まる。


 ゴールを過ぎた瞬間、そうその瞬間、俺たち競走馬にとって最も大切な勝敗をわける瞬間。


 ティトゥスは本来の走りなら低く下げているはずの頭を上げ、なんならこちらを向いていた。


 ………………。


 『いや、なに見てんだよ!?!!????』


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― 新着の感想 ―
いやあ、これは実況を聞くのが楽しそう
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