第64話 俺、信じる
あの後バカヤロウ共は引き離されたわけだが結局俺の意見は聞かないクソマイペース野郎2号3号だった、コミュニケーション能力どうした?母ちゃんの胎の中に置いて来たか?
しかし聞いて貰えない以上仕方がない、勝手に嫁取り合戦をおっ始めようというバカにどうやって俺の意見をわからせるのか、そう、答えは簡単勝つしかない!
俄然やる気に満ち溢れた俺を兄ちゃんは少し心配そうに見ていた、そんな目で見るなって兄ちゃん大丈夫無理はしないから。
少し経ってからやって来たロメロを背に乗せた本馬場入場では有馬記念仕様!いつもより多く回っております!という感じで大回転を見せ観客の心もがっちりキャッチ、G1にいくつも出ている俺だがやっぱり有馬記念は注目度が違うと思う、日本ダービーと有馬記念、競馬を何でもは見ないけどたまに見る層が目にする二大巨頭じゃないか?
有馬記念は単純に年の終わりだし抽選会だなんだもあるしな、そして競馬を少し齧ったなら競馬はダービーに始まりダービーに終わるなんて言葉を聞いたり新馬戦の始まりでそれを感じたりすることもある、どちらも何となく特別感ってものがあるレースだ。
ま!あくまで俺の考えだけど!
だからというわけではないし俺はいつだって勝つつもりで走る、ただオッチャンはきっとこの有馬記念出走を楽しみにしていただろうし勝ったら凄く喜んでくれるんだろうなと思うわけだ、マイルだけ走らせておけば安泰な俺をそれ以外に出走させるのなんてロマンを追う人間しかありえないだろ?
マルと多頭出しをしたことだってそうだ、本来使い分けた方がより確実で効率的に賞金は稼げるだろうしな、オッチャンはわりと夢追い人。
ただ勝算がないのに出走させるほどの酔狂でもないと思ってる、マルとだってバッチバチでマルがいなかったら俺は短距離G1も取ってたし、つまりオッチャンはきっと俺が勝つ姿も描いた上でこれからレースを見るわけだ、より負けてなんてやれねえよな!
「私の美しい華、自分たちを信じて進もう」
1枠1番最内枠、他のどの馬よりも早く導かれたゲート内で今日も兄ちゃんが編んでくれたたてがみの横をロメロが撫でる、ちょっとくすぐったいな。
信じる、そうだ信じよう。
今日まで行って来た訓練を、ひょろさん始め頭をひねり手を尽くしてくれた厩舎の皆を、そして鞍上のロメロと走る俺自身を。
ゲートが開き走り出した直後に体が強張るという症状をなんとかしようと日々を過ごした、ゲート外で止まった状態から走り出すのは、歩いて出るのは、ブリンカーをつけたらどうか。
それは本当に必要なのか?という想定からなるほどなって対策まで、確認して試してを繰り返していれば当然周りはおかしいと気付く、俺の噂は広く出回ったらしい。
けれどそれは想定内、最初にひょろさんが話してくれた、俺の弱点としてバレたっていい、治ったらそれは油断を生む情報になるかもしれない、治らなくてもはなからそれ込みで作戦を立てるから影響なんて出させない。
ひょろさんやロメロだったら言葉通りにしてくれる、だから焦ることなくこちらを品定めしてくるような視線も気にせず課される訓練を熟していった。
それで結局症状はどうなったって?
なんと、治っちゃいました!
俺ってやっぱりつよつよビューティーホース!
といっても症状が比較的軽く、発症するのが限定的な環境で、なにより俺が元人間であの時なにがあったかも理解していたということが大きかったとは思う。
必要なのか?と思った様々な試しは俺の症状が【ゲートから発走する時】という限定的なものだと断定するにいたったし、強張りはしても走れないほどではなく、あの時俺は怪我をしたわけでも心構えなく転んだわけでもないとわかっているから繰り返していく内に徐々に緩和していったんだ。
もちろんこれは俺のこの症状に効いただけで同じような症状を持つどの馬にでも効くなんてことはない、ひょろさん始め考えてくれた対策が上手く嚙み合った結果だ。
日々可愛がり、安田記念のあとは過剰なほどに心配し、症状がわかってからも見放すことなく向き合ってくれた人々、本当に世話になってる。
今日は勝って厩舎の皆にもありがとうの気持ちを届けないとな!




