第61話 俺、備える
俺、有馬記念出るってよ。
いや能力的に行ける、行けるけど秋天以上の予想外だよな、オッチャンは俺を1600~2000mあたりがドンピシャと思ってんのかなと何となく思っていた……1600m以下?マルのやつがさーいや負ける気はないけど1000~1500mだと正直微妙な気はしてるんだよ俺だって、マル以外には負ける気しない!とかいくらでもフラグ建てられんだけど。
だから有馬記念っていうのは予想外、2500mは今までレースとして走ったことはないしれっきとした長距離レースなわけでマイルを主戦場と捉える馬が出走することはあまりない、あまりないだけで居るけどなそしてレジェンドは勝ち星をあげていったのだ、なら続くしかねぇよなぁ!?
と、意気込んだあの日から俺は猛特訓を、とは行かず日々の調教に足されたのは坂路の本数、そしてゲートからの発馬と試走の練習だった。
「まずはハナサンの症状に本番以外でも再現性はあるのか」
「再現性があるなら治す……のは理想として、最低限その影響を抑える方法を考え出す」
「なに前回でわかったんだ、次はそれを想定した作戦も用意したらいい」
「そもそも前回はハナサンが出遅れた時を想定して立てていた作戦でロメロ君は騎乗してくれたしね」
「大丈夫だよハナサン、例え症状が出てそれを治すために練習をしたところで、周りがゲートの出に難が出来たと気付いたところで、それはハナサンの弱みにはならない」
「治せば何も無いのと同じ、むしろそこを隙だと思ってくれたらこちらとしてはありがたい」
「治らなくてもそれを踏まえた上で仕上げた強さをもったハナサンは他の馬に負けないからね、そうだろう?」
そう俺を撫でながら話してくれたのがひょろさん、ウンウン頷いていたのは兄ちゃんと調教助手にロメロ、俺ってばやっぱり愛されビューティーホース!
そういうわけで俺はなんの心配もなく……とは言わないが、大丈夫だと思ってリラックスした状態でロメロを背に乗せてレース以来初めてのゲート練習に臨んだ。
結果?
…………。
出たんだよなぁ、体の強張り。
おそらく前回のレースで思い出したんだ、俺は頭でアレは大したことなかった、問題なかったと処理したけど本能は危険を感じ取りそれを回避しようと同じシチュエーションで緊張状態になる、そういうことだと思う。
我ながらびっくりしちまったぜ、前回は突然のことだったのもあったし結果的に勝利で終えたから良かったけどこうして改めて自分の弱さと向き合うことになるとやっぱりな、元人間だってこともあって幼いころから成熟した精神性を持っていると思っていたのにこれだ、本能っていうのはバカにできないよなまあ今の俺は馬だから当然といえば当然か。
「よかったじゃないかハナサン練習でも出るなら改善はしやすい、本番だけ症状が出るよりよっぽどね」
症状が出てしょんぼりトコトコと歩み寄った俺へ練習を見守っていたひょろさんが掛けてくれた言葉はそんなものだった、染み入る……俺ひょろさんが調教師でよかった。
「そうですハナサン、なるべく私も来るからイッショにがんばるです」
それからロメロが主戦でよかった……いやこの2人だけじゃないんだよな、兄ちゃんはもちろん調教助手の兄ちゃんだったり他の厩務員のオッチャンたちであったり俺は周りの人間に恵まれてると思う。
今回の件だって早々にオッチャンに伝わっているらしく「タカネノハナは落ち込むだろうから好物のバナナあげてやって」とバナナを届けてくれた、とてもおいしかった、もっとくださいオッチャン、できれば山盛り。
こんないい環境に居るんだから俺ばかりが後ろ向きにくよくよしてなんていられないし絶対克服する!克服出来なかったとしてもひょろさんがいう通りにニュービューティーホースタカネノハナとして新しい強さを手に入れてレースに臨む!!!
そう気持ちを新たに日々の調教に勤しんだ俺。
そういえばマルは今年も香港スプリントか?去年負けた借りを返す心はしっかり植え付けたし今年はきっとやってくれるだろう。
香港スプリント、海外レース。
海外レースなぁ……。




