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第8話 俺、目覚める


 スヤスヤ眠りパッチリと目覚めた俺まずは起床のストレッチだマルは別格として俺も柔軟性はそれなりにある、スポーツをする上で柔軟性はどの競技でも通用する万能スキルだと思っているが実際どうなんだろう、まあ怪我防止になりそうな気がするしやるにこしたことはないだろう、継続は力なり。

 いっちにーさんしー、にーにーさんしー。


 『んえ?』


 心の中で軽快な掛け声とともにストレッチしていた俺だがふと違和感を感じて周りを見渡す。

 ……母ちゃん、いなくね?


 『あれー?』


 あっちをキョロキョロこっちをキョロキョロ、馬として産まれ広がった視界を最大限有効活用しても。

 ……やっぱり、母ちゃんいないな?


 いったいこれはどういうことかまずは観察しよう、柵の中には俺とマルそれにモモとシロのそれぞれ母子、あ、マルの母馬もいないじゃん。

 つまり俺とマルの母馬がいなくなっている、そしてその代わりには決してならないが柵の外にこちらを窺がうようにしているジイサンと俺はあまり関わることがない若い姉ちゃん。


 『ジイサンジイサン、俺の母ちゃんいないんだけど寝床帰った?かわいいベイビー忘れてない?』


 パカラパカラ駆けてジイサンの前までくるとそう声をかける。

 俺はジイサンに声をかけたのだがジイサンは困ったような顔をするだけだしなぜか隣の姉ちゃんがウッと呻きながら口元を手で覆い始めた。


 『え、なになにどしたん、話し聞こか?』


 「こんな悲しそうな声を出して……」


 泣きそうになっている姉ちゃん、姉ちゃんのほうが悲しそうじゃない?っていうか俺の声どう聞こえてんの多分俺的には悲しさとか一切ない感じに鳴いてると思うんだけど。


 そういえば人間に俺たちの言葉は通じないんだぜ、知ってた?それは、そう。

 じゃあなんで俺や母ちゃんが自分の名前を知ったり、状況を知ったりしてるかっていうと人間の中でも俺たちに理解できる言葉を発する人間と、理解できない言葉を発する人間がいるからなんだと俺は生まれてから日々観察することで結論付けてる。


 理解できる言葉を発する人間は例えばジイサンだ、ジイサンが発する言葉は俺や母ちゃんはもちろん他の親子も理解してる、それこそマルの名前はジイサンが言ってたのをマルの母馬が覚えてたわけだし。

 理解できない言葉を発する人間は例えばこの姉ちゃんだ、母ちゃんこの姉ちゃんのこと嫌ってたからな、変な声で鳴きながら触って来るって、俺からしたら褒めたたえながらブラッシングしてた姿を知ってるが母ちゃん視点では違うから仕方ない。

 じゃあなんで俺は理解してるかって?そりゃもちろん俺が人間から生まれ変わったから……なのかは正直しらん、だって自分のステータスが見られるわけでもなければ誰かがそうだと教えてくれるわけでもないからな。


 ただ俺は他の馬が理解できない人間の言葉を理解できる、これは大きなアドバンテージで競馬マニアだぜ!ってわけでもない俺がこれから競走馬として生きていく上でとても大切な能力なのは間違いない。

 俺TUEEEEEEE!とまではいかなくても俺イケてんじゃん!くらいには活躍したいししなければならない、俺には守らないとならないものがあるからな!


 「離乳時期は自分のことのようにつらくって……」


 『離乳』


 「母子離すわけだしな、けど慣れないといかんしその顔とねっこの前でしたらダメだ」


 すみませんと言いながら顔を引きしめる姉ちゃん、顔だけ引きしめても体プルプルしてるぜ、体は正直だな!ぐへへ!

 それにしても離乳、母子を離す、なるほど?俺の人間だったころの知識に母馬は次の出産のためにある程度経ったら仔馬と離されるってあるわけだが、それが来たのか。

 そう母ちゃん実は現在妊娠中である、母ちゃん最近ソワソワしてんなーと思ってたら母ちゃんと一緒に移動させられそこで……あとは語るまい、俺はあの日の記憶は捨てることにしたんだ。


 そっかー離乳なー、母ちゃんとお別れかー、寝て起きたら母ちゃんがいないって良いんだか悪いんだかわからないな。

 とっとこ駆けてマルのもとに戻った俺はいまだにスヤスヤ夢の中にいる寝坊助クソマイペース野郎へグイグイ頭突きする。


 ぐいぐいぐいぐいぐいぐい。


 『ふあー、なあにハナもう帰るのー?』


 マルがのんきにそう言いながら起き上がる、そして恒例のストレッチ。

 そんなヤツのストレッチ終わりを待たずに俺はハムハムし始めた。


 『え、なに、どうしたのお』


 『俺と、マルは、もう母ちゃんに会えないって』


 『えー?』


 さっきの俺と同じように辺りを見渡して自分の母馬がいないことを確認したらしいマル。

 その途端最終直線ほどとはいかないが決していつものマルとは言えないオーラを発しながらこれまた同じように目を付けたらしいジイサンのもとに行く後ろを追う。


 『なんで?なんで俺から母さん奪うの?』


 お、これは俺にでもわかる悲痛な声ってヤツだ、姉ちゃんの震えが大きくなった。

 それにしてもマルはマルでちゃんと母馬のこと慕ってたんだな、いやまあそれはそうか母馬の言うことはよく聞いていたし、寝る時はなんだかんだ母馬を近くに呼び寄せたりしてたし。

 俺にしたってそうだ、元人間だけど母ちゃんは母ちゃんとしてちゃんと好いてた、頭ではこれはしかたないことだとわかっていても本能的に嫌だ嫌だと鳴いてしまうかわいいベイビーなところもある。だってそうだろ?生まれてからずっと一緒だった母ちゃんと急に、別れの挨拶もなしに引き離されたんだ。


 『いいぞマルもっと言ってやれ!』

 

 「お前ら本当仲いいなー」

 

 『母さん返して、寝られなくなるよ?』


 「こんだけ仲良かったらちょっとは寂しくないかもなー、ハナとマルは今日から一緒の馬房だぞぉ」


 『……ならいっか』


 『いいんかい!っていうかマジ!?』


 俺とマル、今日から寝食一緒だってよ、って俺牝馬!マル牡馬!いいのかよ!え?かわいいベイビー、そう俺はベイビー、マルもベイビー、なにも問題はなかったそうだね。

 それにしてもマル変わり身早過ぎるんだよ、裏切り者!

 

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