第57話 俺、困惑の連鎖
『一目見た瞬間から自分の運命はアナタだと思いました!自分とお突き合いを前提に仲良くしてください!』
俺タカネノハナ、今目の前には頭を垂れた鹿毛の牡馬、パドックを回ろうと足を踏み入れてすぐ1頭の馬がこちらにやって来たと思ったらこれだ、正直どうしたらいいかわからない。
ところでなんか変換おかしくない?
澄み切った秋空の下繰り広げられる謎の光景に周りは困惑、普段はこんなことをしないのか牡馬の引き綱を持ったオッチャンも大困惑、あ、俺は今天皇賞秋のパドックにいます。
ひょろさんとオッチャンが選んだ復帰戦はまさかの東京芝2000m天皇賞(秋)でした、いやまさかってほどではないか?俺の適正を考えると問題はないしマイル馬として認識されている数々の名馬も勝ち星を上げて来たレースだからな、それに並ぶのも悪くないどんと来い秋天……の気持ちで来たらこれだ。
『いやー、色々言いてぇけどとりあえず顔上げろって、隣のオッチャン凄い顔してるぞ』
『オーケーくれるまで上げません!』
『えー』
プヒューン
「ソテお前どうしたんだ、すみませんいつもはこんなことするやつじゃないんですが……」
「いえ、なんというかおかしな話ですがパドックで止まることはよくあるのであまり気にせず……」
オッチャンと兄ちゃんが俺達の引き綱を持ったまま頭を下げ合っている、とても日本人的光景だ、そしてこの牡馬の名前はソテというらしい、人のこと言えないが変わった名前だななんだソテって俺が知ってるのはソテーくらいだ腹減って来た。
『あー……運命とかオツキアイはいったん置いといて仲良くっていうのはべつに拒否する理由ないな』
『運命は大事です!アナタのその輝くような栗毛、牡馬にも負けない鍛え上げられた肉体、全てが美しい!』
『褒められるのは嬉しいけど場所考えようぜ!?』
『今まで会ったことがなかったアナタに次いつ会えるのかわからない、それなら今伝えるしかないでしょう!』
『確かに!!!!!!!!!』
ヤバい納得してしまった、けどそれは確かにそうで同じ厩舎でなくとも調教の時に出会う馬というのは数が多くその時にすら会わない馬というのはよほどタイミングが合わなかったかもしくはトレーニングセンターの所属が違うのだ。
『けどさー、俺って生涯現役のつもりだしそもそも牡馬とオツキアイとか無理だし』
『なんでですか!?』
『なんでっていわれてもそういう感情ないし……』
『つまり自分がアナタのお眼鏡にかなう牡馬となればいい、そういうことですね!!!!!!!!』
『ええええ、それはちが『わかりました今日自分は1着を取ります!』ア゛ァン?』
口説かれていたと思ったら急に喧嘩を売られたんだが?思わず威圧するもアホ殿や実力差のある馬と違い下げていた頭を上げ真正面から受け止められる、そういきなりアホなことをやらかすソテだが確かに強者側だと感じられる空気を纏っている。
自信と確信に満ちた面構え、俺とっても腹が立ちます。
『いい度胸じゃねぇか!俺が勝つけど例え負けたとしてもそれはそれだからオツキアイはしねぇぞ!わかってんのか!?』
『はい、自分が勝ちますが惚れさせてみせるので待っててください!』
ダメだこいつ言葉が通じてるはずなのに話が通じないし聞かない、マルとはまた異なるクソマイペース野郎だ。
言いたいだけ言って満足したのか周回の輪に加わるソテ、俺は気持ちが収まらず頭を振り兄ちゃんになだめられながらの周回……解せぬ。
「ハナサンどうしたですか、どこか気になる?」
「いえちょっと他の馬に絡まれてからこんな感じで、身体面は問題ないかと」
「ならよかったです」
俺に騎乗するためやって来たロメロが落ち着かない俺の様子を気にして兄ちゃんに確認する、その瞳は心配に満ちていて……なんかごめんな、いや俺が悪いんじゃないけどそんな乱されることでもなかった気するしやっぱりごめん、ロメロは安田記念以来心配性なんだ。
早くに帰った牧場にも何度も足を運んで来たし厩舎に戻ってからは前より高い頻度で調教に付き合ってくれていた気がする、自分だって怪我をしていたかもしれないのに俺の心配ばかり、ロメロお前も気を付けてくれよ?
「ハナサン今日もよろしくです」
『おう!今日こそ1着になってやるからな!』
「ハナサン今日も1日ご安全にです」
お、おう、なんか本当ごめんな……。




