第56話 俺、久しぶり
うめ、うめ、ご飯、うめ。
「ハナサンは本当においしそうにご飯食べるな」
大変おいしいご飯をいただいている俺、場所はひょろさんの厩舎の馬房、そう俺は再びレースの準備のため厩舎へと戻されていた。
え?アホ殿?
いやまあきっちり面倒見てやったぜ?一切甘やかさずヒンヒン言うアホ殿に考えるとはなにか、人間に従う意味とはなにか、姉より優れた弟などいないと毎日骨の髄まで教え込んでやった!あれでへこたれず挑んで来るあたり俺の弟だけある、きっと来年か再来年には重賞を勝ち取ることだろう……多分、きっとな。
いくら同じ両親でも違う馬だから成長力は違うわけでアホ殿がいつ頃本格化するかまではわからない、それでもこのままトレーニングを積んでいって本格化した暁には重賞……まあG1だな、アホ殿がG1を取るのも夢じゃないと思ってる、もちろん対抗馬次第だし俺が一緒なら負けないけどな!
それにしても本当ひょろさん厩舎のご飯はうまいぜ、同じ配合を伝えられてるであろう牧場でもおいしく感じるけどなんだか厩舎で食べる方がおいしく感じるんだよな、雰囲気にやられてる?イメージの問題?まあうまいからよし。
こうして厩舎に戻った俺はよく食べ、よく動き、よく寝て牧場で蓄えた脂肪を再び筋肉へと変換していきビューティーボディを作り上げていっている。
そんなある日のことである。
『あれ、マルじゃん』
『ハナ!!!!!!!!!!!!!』
久しぶりにマルと出会った、そう久しぶりである、なんとこの夏マルは牧場に帰ってこなかった……んだと思う、少なくとも俺は会ってないしいつもの馬房が使われている様子もなかった。
そして厩舎に戻ってからもこれは多分意図してだろう遠目にチラッとくらいはあったが話せるような距離で見かけることすらなく過ごしていたわけだ、それが今日こうして出会ったのはきっと色んな人間の思惑の結果なんだろう。
そう、マル俺への依存ヤバい問題!
まさか俺も安田記念で俺に釣られて競走中止するとは思わなかった、アレはさすがのオッチャンや調教師の人も看過できなかったんだろう俺だってそう感じる、だからこそ多分荒療治したんだ、きっとそう。
『ハナー会いたかったよー』
ハムハムハムハムハムハムハムハムハムハムハムハム
マルの無限ハムハムが始まって虚無顔になる俺、そんな俺とマルを微笑ましそうにみる調教助手の兄ちゃんたち。
いやー……一切止める様子がないってことはやっぱりこれ意図的か。
『そういえばマルお前走路調教再審査受けたんだって?』
『……うーん、多分アレかな、受けたと思う』
プフフン
安田記念のあとすぐ牧場へと帰された俺だがジイサンからマルが走路調教再審査になったという話は聞いていた、どうやら本当だったらしい。
まあそうなるよな逸走とかそんなレベルじゃない出来事が起きてたし、あの時マルの調教師は白目剝いててもおかしくない。
『無事受かったんだろ?』
『うん、大丈夫』
『そうか、もうあんなことするなよ?』
『だってハナのこと心配だった……けど人間がすごい色々わからないこと言ってきてたし、すごい顔してたし、ハナとも会えなくされたし、もうしない』
『おー、心配してくれたのはありがとな、でも次は走り切ってくれた方が俺も嬉しい』
『わかったー』
感謝のハムハム返しをする、マルが心配してくれた気持ちはあの時でも十分伝わってたし嬉しくもあったからな、だからって競走中止を肯定はしねぇけど!
それにこの強制的に俺離れ期間のおかげかマルが前より落ち着いた気がする、いや一般基準で見たらまだまだ俺にべったり感があるかもしれない、どうだ、マルに関しての感覚が麻痺してよくわからない。
『そういえばレース近いのか?』
『そんな感じがするかなー多分去年も出た短いのだと思う』
『短いの、スプリンターズステークスか』
『さあ?ハナは?次の走るところ決まってる?』
『少なくともスプリンターズステークスではねぇのは確かだな!』
『ちぇー』
スプリンターズステークスに出るならもっと早く帰ってきてるだろうし調教内容も違うはずだから俺のレースはまだ先だ。
……。
そういえば俺復帰戦何に出るんだ?去年と同じマイルチャンピオンシップ?それともG1じゃない重賞レース?
ひょろさん早く教えてくんねぇかな、やっぱりレースが決まってるのとないのとじゃ気合いの入り方が違うし。
だから教えられてない可能性?
……あるかも。




