第53話 俺、俺様何様どちら様
「いいこなはなちゃにはすいかよー」
しっかりと反省の心と新たなる意気込みを持った俺はヒナちゃんの手からスイカを貰って食べている。
うめ、うめ、スイカ、うめ。
ヒナちゃんからもらうからさらにうめ。
いやースイカ食べると夏だなって気がする、オッチャンはしっかり季節にあった果物を差し入れしてくれるからな春夏秋冬果物の絶えないいい環境だ、なんなら人間のころよりその辺りは贅沢しているかもしれない、オッチャンが用意してくれる果物はどことなくお高そうだし。
プリティーヒナちゃんにオヤツをもらいぺちぺちしてもらい、オッチャンに褒められ撫でられ大満足な俺、しかし楽しい時間は一瞬で過ぎてしまうオッチャンが腕時計を確認するとヒナちゃんと手を繋いだ。
「さて、そろそろ帰ろうかヒナ」
「はーい!はなちゃまたねー」
『次はちゃんと勝つから!また会う時は口取り式だから!ヒナちゃん元気でなー!!!あ、オッチャンも体には気を付けろよ』
プヒーンブルルルフヒュン
かわいいお手手をフリフリして帰っていくヒナちゃんとニコニコなオッチャン、それに付き添うジイサンを見送る。
見送った後にはそう、3人が来る前以上の孤独……。
『なんで周りに馬いねぇんだよおおおおおおおおおおお!』
俺悲しみの爆走。
夏だぜ夏、G1はないし本州なんて暑いじゃん!馬にとってよくねぇって北海道来いよ!
大多数の競走馬はG1どころか重賞に挑めるのも上澄み?中央芝に限らず地方やダート路線の馬もいる?避暑が北海道とは限らない?それは、そう。
でも言いたくなるんだよ、群れでいたいとまでは言わない、それは言わないけど一緒に併走したり気軽に話せる相手がほしい。
青草はうまいし放牧地を駆けまわるのは気持ちいいし寝たりするのも好きだけどそれとこれとは別の話、あんまり1頭にされると拗ねるぞ?いいのか?俺が拗ねると面倒臭いぞ?普通の馬にも好き嫌いはあって1頭がストレスになるやつもいるだろうが俺とは毛色が違う俺は元人間の知能から来る退屈さにやられそうだ、長期間1頭になると暇過ぎて暇過ぎて……。
『俺様最強ナンバーワーン敵なし無敵のニューヒーロー♪』
思わず歌っちゃうぜ。
……。
いや違う俺じゃない!断じて違う!歌うとしても俺はこんな振り返った時にイタタタタァ!誰か俺を殺せぇ!!!!って歌は歌わねぇから!そういうのはしっかり中学生のころに卒業したって!
ぼっちで放牧地を走り回っていた俺のもとに届いた謎の声、隣の放牧地は空いたままつまり隣人ならぬ隣馬ではない、じゃあ牧場で働く誰かかオッチャンたちのように見学に来た人間か?そう思いそういった曲があるのかはたまた自意識が天元突破しオリジナルソングを口ずさんでしまうにいたったのか歌が聞こえる方を見た俺の目に映ったのは金の毛をなびかせて闊歩する1頭の馬の姿。
…………。
ファ!?なんでそんなところにいんの!?
おかしい、絶対におかしい、何故ならその馬が我が物顔で歩いてるのは放牧地と放牧地の間の通り道、傍らに人間がいて引かれて歩いているならまだしも近くに人影がいない状態で歩いているということはあり得ない場所。
つまりそうコイツはもしかしなくても脱走馬だな!?
『オイオイオイお前こんなところで何してんだよ!』
さすがに見なかった振りをするわけにもいかず軽快な足取りでパッパカ歩く馬の方へと近付いて行く。
改めて観察、陽を浴びて輝く金に見えた白いたてがみと尻尾馬体は俺と同じく栗毛、コイツ尾花栗毛ってやつだな?牡の年齢は下だな2~3歳ってところだろう、まだ成長途中という感じがするが脚は長く胴が詰まった感じもしない中長距離に向きそうな体つき、筋肉のつき方もよし、顔もシュッとしていてなかなかのグッドルッキングホースじゃねぇか。
『ハァ?俺様がどこにいようとテメェには関係ね『ア゛ァン?』ヒン』
あまりに尊大な態度でこの俺に向かってテメェとか言いやがるから思わず威圧しちまったぜ。
いくら牡でそこそこの馬体を持った馬と言ってもしょせんは推定若駒、サイズ的な意味での成長期を終えた俺の体とは比べるまでもなく格の違いは明らか、それにもかかわらずこんな態度を取る度胸は買ってやるが馬の世界では上下関係は大切だからな、しっかりわからせてやろう。
『お前は、なんで、ここにいる?』
『お、俺様は何者にも囚われないからな!俺様を縛り付ける囲いから抜け出してやったんだ』
『抜け出したって、どうやって』
『俺様は天才だから人間がやってる動作から脱出法を見つけ出してそれを真似した』
言葉の選び方や自己評価の高さが引っ掛かるがコイツの話を聞く感じアホっぽいくせにどうやら頭がいいな?
多分簡易的な鍵というか突っ掛けというか、そういう仕組みの放牧地に割り振られていたのだろう、俺が今放牧されているところは違うが中には上に引っ張り上げれば錠が開けられる場所もあることを俺は知っている、知っているからって脱出しようと考えたことはなかった。
『だからって抜けだしたら人間が心配するぞ』
『ふん!俺様には関係ない!』
『関係ないじゃねぇだろ、世話してもらってるくせに心配かけるとか何考えてんだ』
ひっそりと言葉のブーメランを頭に刺しどうしたものかと考えながらなるべくアホの俺様をこの場に留めるため会話を続ける。
放牧地には点々と監視カメラが設置されているんだ、だからそれに映ったコイツを捕まえに来る牧場の人間がいるはずで……噂をすれば影だな。
「トノお前ここにいたのか」
『げ!ジジイ!!!』
フヒィン
『ジイサン!』
ブフ
「いやー、本能か?とりあえず無事でよかったよかった」
立派な四本足があるにも関わらず逃げずに耳を絞るアホの俺様、逃げたら負けとでも思ってるのか?ジイサンは気にすることなく引き綱を無口に取り付けている、さらばアホの俺様もう脱走するなよ。
アホの俺様を連れて元の放牧地へと戻るかと思ったジイサンが不意に振り返って俺を見る、なんだ?
「そうだハナこの子が前言ってたハナの弟のトノって言ってな、どうだ独特だろ?」
『ホァ!?』
このアホの俺様がビューティーホース俺の弟!?
チェンジで!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!




