第51話 俺、極楽の手
想定外の早さで生まれ故郷に帰された俺は出迎えと共に号泣された、誰にと言えばジイサン……ではない、ジイサンはいつもと変わらず笑顔で出迎えてくれた、ただその横にいた姉ちゃんはすごい勢いで泣いた顔面ぐっちゃぐちゃにして「よかった」と繰り返す姿はちょっとしたホラーでもありけれどありがたいことでもあるよなと思う思いたい思えたらどれほどよかったでしょう。
いや気持ちはわかるんだぜ?それこそ牧場の人たちなんて俺が母ちゃんの腹の中にいるころから俺の存在を知ってるわけで、まだビューティーホースになる前とねっこ時代のプリティーベイビーがすくすくと育つ過程も見ていた……泣くな、なにかあったらと思ったら泣いても仕方ない。
その点ジイサンはさすがというか年の功というか、今まで多くの馬を見守り見送って来ただろうことがわかる落ち着きっぷりだ、そもそも事実として俺は無事なわけだからそんな大袈裟にされても困るし強い感情っていうのは動物にとっていいものでもないジイサンみたいな人間は落ち着く。
べそかき姉ちゃんとジイサンに連れられていつもの馬房へとおさまった俺、時期的な問題かいつもより他の馬の気配が少ない建物内、道中ではすれ違った従業員の人らにおかえりと声を掛けられながらの帰還はなかなか心地いい。
夏前の目標としていたレースが終わった以上結局放牧されていただろうから少し早めの夏休み突入と思ってのんびりしますか。
ひとつ牧場での生活を満喫するうえで気掛かりがあるとすればオッチャンもしかしてこのまま俺を引退させるんじゃないか疑惑だがこれは俺にはどうしようもない、オッチャンがどう考えてるか知る手段もないからただ誰かが今後の話をすることを待つしかない。
つまり俺は食って寝てオヤツもらって可愛がられて放牧地で駆け回るしかねぇよな!
『ういー……そこそこー』
プフーン
「ハナはマッサージ好きだなぁ」
満喫することを決めた俺は今ジイサンにマッサージされていた、ジイサンは本当にジイサンだからな兄ちゃんの方が力だってあるだろうにそこは熟練の技というものなのかジイサンがしてくれるマッサージが一番気持ちいい、体をベタベタ触られるわけだし圧という刺激を受けるわけだから嫌う馬もいるらしいが俺は大好き、最高。
『あ゛ー、キクゥ』
ブヒュ
「そういえば今年もパトラは元気なとねっこ産んでな妹が増えたぞ」
『ほへー、母ちゃん元気みたいでよかったけどまた妹かー』
「パトラは本当に子出しがいいからハナも引き継いでるといいなー」
『あの、ちょっとその話題今敏感なんでやめてくれる?つーか繫殖入りしないから!』
フヒィンブルルルル
「なんだハナはもっと走りたいか?」
『走りたい走りたい!アレで引退とか恥ずかし過ぎるし!ジイサンからオッチャンに言ってくれよ!!!!』
「よーしよしよし、落ち着けー」
『あ、そこすげぇほぐれる気がする俺のビューティーボディに磨きが掛かっちゃううううう』
「よーしよし」
昂り始めてもすぐジイサンの魔法の手によって鎮められてしまう俺、ここが極楽への入口かもしれない。
「そういえばハナのふたつ下が牡馬なんだがヤンチャでなぁ」
『お、姉ちゃんの話は聞いてたけどそう言えば下の話あんま聞いたことなかったな』
「パトラの産んだ中で牡馬は今のところあの子だけなんだが独特でな……ありゃあマル並みだ」
『うげー、そりゃ大変だなジイサン』
「パトラの子は大なり小なりそういった傾向あるが一二を争う」
『ほへー』
プヒー
弟君な、ふたつ下ってことは今2歳馬か俺は生まれも早かったし仕上がりもきっちりでデビューが早かったが弟君はどうなのか、夏デビュー?秋?冬?多分母ちゃんの子として産まれて競走馬デビューしないってことはないだろうし、それならそもそもジイサンは話題に出さないだろうからな。
独特ってのはまあクセがあるってことなんだと思う、それがどういった系統なのか会ったことない俺にはわからないが母ちゃんの子は大なり小なりってもしかして母ちゃんはクセ馬排出率高い感じ?……そういえば記憶はだいぶ薄くなって来たけど母ちゃんもちょっとクセ強かったもんな、クセ?個性?うん、とにかくキャラが濃いめだった。
ところでジイサンその一二を争う片割れは姉ちゃん達か妹ちゃんの誰かで俺じゃないよな?オンリーワンでナンバーワンでも嬉しくねぇこともあるんだが?
「ハナならきっと負けんだろうから会ったら面倒見てやれなぁ」
負けないってそれ競走馬としてって意味だよな?クセ馬としてじゃないよな?ジイサン?????????




