第50話 俺、無事なんです
『いやー、本当なんともないんだけどな?』
『人間って騒がしいよねー』
『まあそんだけ大切にしたいんだよ』
『ふーん』
その後続々と増えた人は獣医であったり職員の人たちであったり色々だがいまだ賑やかな周りの中俺は簡易的なチェックを受けたりなんだりしながらマルと話す。
何とかマルを引き離そうと努力していた人たちはもう諦めた、クソマイペース野郎はどこまでもマイペースなうえにクソデカ馬体なので人の力程度ではどうこうならないし無理矢理動かそうとして暴れられたりしたらそれこそ一大事だからな。
ロメロと兄ちゃんの視線を痛いほど感じる、自分ではわからない場合もあるから拒否とかはしないが早く終わんねぇかな。
今なんともなさそうな顔してるけど内心では絶賛羞恥心で転げ回ってる最中なんだよ!なんで躓いたりしたんだ俺!!!
それにそもそもロメロは俺の心配もいいけど自分の体の心配をしたほうがいいだろ?落馬したわけだし俺からじゃどう落ちて行ったかわからないけど変なところ打ったりしてないか?今は大丈夫でも何があるかわからないから精密検査したほうがいいって、周りの人も多分ロメロを引き上げさせようとしているのにロメロが同意しないっぽいんだよな。
俺ってば愛されビューティーホースで困っちゃう……。
色々と触られ無事いったん歩いて戻ることを許可された俺はお前も早く検査して貰えよの気持ちをこめてロメロに頭を押し付け撫でて貰ってから兄ちゃんに引き綱を持ってもらいマルと並んでパカパカとっくにレースが終わった場内を通過し戻って行く。
当たり前のようにマルは隣を歩いているがこのクソマイペース野郎はここにいることも、俺と一緒に行動することも、なにひとつ正当性はないのに堂々と歩いているただの馬鹿野郎である。
そして俺はそんな馬鹿野郎を生み出してしまった大馬鹿野郎である……、悪気はなかったんだごめんな俺とマルの関係者各位。
引き上げて行った先にはひょろさんやマルの調教師であるオッサンが待ち構え状況を聞きながら俺達の馬体を確認してくる、人生で一番多くの人に念入りに見られまくってる気がするな。
とりあえずは無事ということが伝わると改めての安堵やらなにやらは俺やマルの直接的な関係者に限らず全体へ広がって行った、心がチクチクするぜ……。
「タカネノハナ、ハナマルゴーゴー」
職員や厩舎関係者が集まる中で新しく俺達2頭に声をかけてきたのは馬主であるオッチャンだった。
「……本当に無事でよかった」
場所を空けられ俺らの間に立つように位置取ったオッチャンは交互に俺たちの顔を見たあと深いため息をこぼしてからなんとも情けない眉尻を下げた表情でそう言った……。
うおおおおおおおおおお兄ちゃんも大概だったけどオッチャンはさらに罪悪感が!色々聞いているからよけいに罪悪感が!馬主孝行な所有馬になるからそんな顔するなってオッチャン、オッチャンがそんな感じだと調子狂うだろ!?
『マル!一緒にハムるぞ!』
プヒンプフン
『えー、なんでー?』
ブルル
『いいから!お前だってオッチャン嫌いじゃねぇだろ!』
フヒィーンヒンフヒン
『そうだけどー』
プフー
マルを誘ってから俺はオッチャンに顔を近付け鼻先を撫でて貰いその手をハムハムする、ハムハムハムハム、マルも同じようにしているからオッチャンは今両手にハナだな、マルもハナマルだからハナ入ってるし!
そうしてしばらくハムハムしていると徐々にオッチャンの表情はやわらいで行きいつもの雰囲気に戻ってきた、一安心一安心。
オッチャンのメンタルケアをした俺たち……ではなく、俺はマルと離れ兄ちゃんに誘導されて今度はしっかりと全体検査をするためいつもと異なる場所へと連れて行かれた。
触診やらなんやらしたがそれでも確認できない何かがあったら大問題、なるべく勢いがついていない状態で自分が倒れるとわかったうえでの転倒だからそう変な力が掛かったりだとかはないと思う、それでも5XXkgを支える四本足は決して太いわけでもなければ鋼鉄で出来ているわけでもない、周囲の人間が細心の注意をはらってもある日突然ということもあるくらいには繊細な生物なんだ俺たち馬は。
良い子に検査を受け、その結果問題なしの太鼓判をもらった俺は厩舎へいつも通り馬運車で帰され、そしてその数日後馬運車へと再び詰め込まれいつものようにたっぷり用意されたご飯と共に旅立った……。
そう、旅立ってしまった。
待ってくれ帰るには早くない!?早いよな!?!?!????
オッチャン今回のことが心配過ぎて急遽引退です!とかないよな!?!??!??!!!!!!




