第45話 俺、主張する
煽りカスのクソマイペース野郎を前にして荒ぶりだした俺はロメロになんとかなだめすかされウイニングランへ向かうマルとは異なり後検量のために検量室前へとトボトボと向かった。
もちろんムカつく気持ちもあるがそれ以上に悔しくまた落ち込んでしまう、いくら土俵がマルに適した距離と言えど負けは負けで俺の心はかき乱される。
検量室前へ向かう最中も背に乗るロメロは俺の首を撫で慰めの言葉を掛けてくれるがそんなのじゃ全く癒されない、せめて甘いものを用意してほしい、俺の傷心に必要なのは甘いものそれ以外にない。
あ、甘いもの以外でもヒナちゃんの応援は癒しに含む!ラブリーヒナちゃんがいれば元気100倍、……いや今日来てるとしたら負けたところを見られたってことでそれは嫌だからやっぱナシで!!!!!!!!
誘導されロメロを背中へ乗せたまま検量室前にある2と書かれた仕切りの横へと入る、そう、2、2着……1着の方を未練がましく見る俺に兄ちゃんは苦笑い、ロメロは神妙な面持ちで俺の上から降り鞍などを外す。
きっとどうしたら勝てたのかって俺と同じことを考えてるんだろうな、スタートの出はいつも通り悪くなかった、道中だってロスらしいロスはなく走れていた、じゃあなんで負けたかと言えば1200mという距離では俺の能力はマルに劣っているという悲しい現実が待つのみ。
後検量のために移動するロメロの背中をじっと見つめながらふつふつと湧き上がる熱を飲み込み頭を上下に軽く振る、兄ちゃんこれくらい許してくれ。
幼いころからわかっていたマルは俺より恵まれた才能を持っている、だからこそ負けたくないと思ったし勝つために頑張って来た、それでも今日はこの結果だ。
まあけどこれでへこたれる俺じゃない!今日は負けた、そう今日はだ!俺はまだまだ成長の余地があると自分でなんとなくわかっているしそうしたら勝てるかもしれない、そもそもスプリントでは負けてもマイルだったら結果は違う!
脳内のG1カレンダーで検索したらすぐにヒットする、次は安田記念だな!ヴィクトリアマイル?マルは牝馬じゃないからナシ!……と俺は思ってるけどオッチャンはどう思っているのか、馬主としてG1なんていくら取ったっていいだろうし、俺の出ないマイル戦ならマルが勝つ可能性は十分あって俺は牝馬限定戦で負ける気がしない。
……イヤ、ないよな?そんな俺をもてあそぶようなことするオッチャンじゃないよな?
去年マルは香港スプリントに行った……?
それは、そう。
「ハナサン……帰ったらおいしいもの食べような?」
マジで!?
プヒュ
頭を振るのをやめいまいち思考が読めないオッチャンのことを考えていると兄ちゃんがそう声をかけて来た、もしかしたらとてつもなく落ち込んでいると思われたかもしれない、落ち込んではいるがそこまでじゃない、けど食えるものはいくらでももらう主義の俺は喜んじゃうぜ。
兄ちゃんに口をもにもにと揉まれながら退場が許されるのを待っている俺の広い視界の中へと不意に見知った姿が入り込んで来た。
アレは、オッチャン!?
それは確かにオッチャンの姿で、馬主という立場のオッチャンは当然立ち入る権利を持っているが今まで見たことなかったから来ない主義なのかと思っていた。
なぜ今日に限って来たのか、勘違いじゃなかったら俺とマルのためだよな、それなら遠慮なしで訴えるしかない!!!
『オッチャン!絶対また俺とマル一緒に走らせてくれよ!?これが最初で最後だったら髪の毛もしゃるぞ!!!!!!!!』
フヒィンヒンヒンブルルルルゥ
「落ち着けってハナサン!どうどう」
急に荒ぶりだした俺を兄ちゃんがなんとか落ち着かせようとするが俺はなんとしてもオッチャンにこの意思を伝えなければならいんだ、オッチャン見てくれ俺の目を、次の戦いに向けて闘志の宿るビューティーアイを!
『負けっぱなしで放置とか拗ねるぞ!盛大に拗ねるからな!!!』
ブヒュンブフフフフ
カッカッ足元で蹄鉄が鳴る、落ち着きのなくなった俺に周りがざわめく。
『安田記念!安田記念に俺とマル出せよオッチャン!!!!!!!!!!!』
ヒヒィーン
こちらを見つめていたかと思えば片手を上げて振るオッチャン、いや挨拶したとかじゃねぇけど!?これ伝わってる?伝わってねぇよな!だって俺馬だし!!!!!
人と馬の間に立ちはだかる言語の壁を実感し頭を垂れる俺、そうすると先ほどまでなんとか落ち着かせようとしていた兄ちゃんがそれまで以上に慌てて日夜世話してくれることで身につけた俺が好きな撫で方で口やら首やらを撫で始める。
「よしよし今日もよく頑張ったからな、よくやったんだよ、それに次は勝つだろハナサン、な?」
『兄ちゃん……』
フヒン
俺、次がどのレースだろうとがんばる!




