第44話 俺、勝負の時
マルの野郎のあまりに傲慢な物言いに思わずプッチン来てしまった俺はアレからの記憶がない、記憶はないが気付けばロメロを背中に乗せ本馬場でクルクル回りなんやかんやあり最終的には大人しくゲートに収まっている、自分の無意識が怖いぜ……。
今日の枠順は6枠、正直言ってあまりよくないどうせなら内枠か外枠に振り切れていた方が気分的にいいし走りやすい。
それにしてもこれまでの出走経験として俺は外目の枠が多い、逃げ馬としては内枠の方が距離ロスもないしスタートに自信のある俺はありがたいんだが……ロメロかひょろさんコンピューター抽選なのに外枠芸人とかあだ名付いてたりしない?アルミホイル案件とか言われる引きしてたりしない?大丈夫そ?
……出来ることなら俺有馬記念は走りたくない、な、特に深い意味はないけどなんとなく、な?
「私の麗しい華、もうすぐだよ」
一抹の不安を抱いていた俺だがロメロがそう声をかけてくることで意識がレースへと戻る、そうだ俺はなんとしてもこの高松宮記念を勝利しあの生意気なクソマイペース野郎にぎゃふんと言わせなければならないんだ、気を引き締めて行くぞ!
元々スプリント区分ではマルの方に分がある、一分の隙もなく走らなければあっという間に勝敗が決まってしまうそれがスプリント戦の難しいところ。
ゲートが開きいつもと変わらないスタートを切る俺、だがいつもより視界から他の馬が消えない、スプリントではゲートの遅れは死活問題となる当然のことだ。
そんな中クソマイペース野郎は白帽を被っている鞍上を迎えているにも関わらず当然のように視界の端へと消えて行く、どうせ後方に控えるならそれの枠寄越せよ!!!
それでもハナは譲らず先頭へと躍り出て緩やかなのぼりを走る、初めて走る競馬場、初めて公式に走る距離、俺以外にも逃げに打って出る馬もいるがそれより気になるのは先行軍団の近さだ。
1200mを全力で走り抜ける馬たちは馬身差がそう開かない、逃げ馬と先行馬が連なりそれより後ろも同じく、どこからどこが逃げ馬で先行馬なのかわからない、わからないのはいいが距離が開かないのは俺のスタイル的にとても困る。
のぼりが終わるともうカーブに入り次は緩やかなくだり、ただそのカーブの作りは遠心力に喧嘩を売らないとならないらしい、このコースクセ強くない?いや今まで走った競馬場もそれぞれクセはあるけど。
コースに負けないよう脚を回す、4コーナーにかけて動き出す馬と鞍上、優勝を手に入れるためそれぞれが最適だと思うコース取りをしようと牽制し馬群を割り突き進む、勝負の時は目の前。
直線を向いた瞬間全身へ圧し掛かるようなプレッシャーが後方から襲ってきた、幼いころから幾度となく浴びた振り返らずともわかるこの感覚、マルの野郎が他馬を追い抜き来てやがる!
焦る心の前に立ちはだかる坂、中々キツイあのカーブが終わったらこれかよ、それでもパワーにも自信のある俺は駆け上がり先頭のまま平坦な直線へと入った。
前回とは違うロメロのこちらに寄り添いそっと背中を押すような心地になる追い動作と入る鞭、鼻から空気を取り込んで体内の動きのままに吐き出し繰り返される呼吸、何度体験したってハミはとてつもなくうっとうしい。
自分が立てる音、周囲が立てる音、スプリント戦という舞台の上ではもとより馬身差は付いておらずうねる波のように馬群が迫りくる。
その中で何故か、いや必然的に耳に入る地を踏み付ける足音、力を誇示するように、周りを屈服させるように、全てを飲み込む直線一気。
駆ける、駆ける、それでも重なる影、何度も負けて負けて負け続けたその黒い馬体。
『チックショウがあああああああ!!!!!!!』
先頭が入れ替わる、それでも諦めず全身で前へと進む、だがもう届かない単純な速度では勝てないことなど他の誰でもない俺が一番知っている、勝ったのはマルだ……。
ゴール板の先僅かな差で前を行ったマルがスピードを緩め、そしてこちらを向いた。
『ほら、僕が勝った』
『ムギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!』
ヒヒィーンンンンンン




