第43話 俺、バチバチしたかった
はむはむ。
『マル、あのさ……さすがにここではやめね?』
はむはむはむ。
『周り見てみろって、え?って顔してこっち見てるから、馬も人も何してんの?って顔してっから!!!』
はむはむはむはむ。
『無視するのも大概にしろやこのクソマイペース野郎が!!!!!!!!!!!』
ヒヒィーン
俺としたことが微塵も言葉が響くことのないクソマイペース野郎に思わず二本足立ちしちまったぜ、ごめんな兄ちゃん。
俺とマルが今どこにいるか、他の馬や人の目がある場所、ハムハムするには適してない場所、本来なら別の行動をすべき場所、そうパドックである。
休養を終えた俺たちを待っていたのは同じ舞台への参戦、今日行われるのは春G1の始まりを告げるスプリントレース、中京競馬場芝1200m、高松宮記念である。
『せっかくハナと一緒になったのにー』
『そうだな、それは俺も楽しみにしてたけどこういうことじゃねぇんだよ!』
俺とマルが競馬場で競うのは初めてのこと、前回のマイルCSで肩透かしを食らった身としてこの日を待ちに待ったという感覚で今日という日をとんでもなく楽しみにしていた。
パドックでだってバチバチしてやるぜ!そう思っていたのはどうやら俺だけだったらしい、クソマイペース野郎は俺を見つけたかと思えば厩務員の静止も聞かず一直線に俺のもとへと来てハムハムしだした。
俺とマルの間では慣れ親しんだことで、当然それはどちらの厩務員も見慣れた姿だがここはパドック、そうパドック。
衆人環視のもと本来ならパカパカ歩いてアピールするはずが行われるのは仲良しアピール、この俺の行き場のない気持ちをわかってくれ、俺はこんなちょっとした羞恥プレイをされるために来たわけじゃない、人だけでなく年上の馬たちが多いここではなんだかハハーンさては的な視線すら感じる気がする。
だが勘違いしないでくれマルにその気は一切ないし俺にも当然ない、コイツにとっては多分お気に入りのおもちゃとか、安眠できるいつもの枕とか、そういった分類なんだ俺は。
近くにいると安心するし他人の手で離れ離れにされたら断固として拒否する、あって当然でなくなったら機嫌を損なう、そういったはた迷惑な友情というか所有欲というか面倒くさいものを持たれているだけなんだ。
ジイサン、やっぱりマルには俺離れをさせるべきだったと思うんだよ俺は、ジイサンが鬼の心で対応しなかった結果こんなわがままクソマイペース野郎が爆誕しちまったぜ……。
『いったん終わり!歩け!兄ちゃんたちに悪いだろ!!!』
『えー』
『えー、じゃない!』
ブルルルゥウ
駄々をこねようとするマルを一喝して順番は可笑しくなったが歩き始めた俺、その横に付いて歩くマル、もっと離れろよと思うがこのあたりがクソマイペース野郎に対しての妥協点か……?
せっかく初めての中京競馬場だ今までと違う雰囲気を楽しもうと思っていたのにマルのせいでプランが崩れた、どうでもいいが俺はちょっと知識が増えるまでは中京競馬場が地方だと思ってたんだよな、中央のくくりは東京、中山、阪神、京都の4競馬場だと思ってた、違った。
引き綱を持つ厩務員同士が苦笑いで会釈をする中並んで歩くパドック、マルはどこまでもクソマイペース野郎で……これから何があるか知らないってことはさすがにないだろうがあまりに緊張感がない。
『お前わかってんだよな?今日俺ら競走するからな?』
『わかってるよいつもこのグルグルした後走るし、ハナと一緒に走れるの楽しみだなー』
『楽しみだなーってそんな駆けっこじゃねぇんだから』
『同じことだよー』
『同じこと……?』
『僕が勝つから、昔からそうだったでしょ?』
ハイ、コイツ絶対泣かす!!!!!!!!!!!!!!!!!!!




