第41話 俺、機嫌をなおす
ロメロと無事和解した俺はそれから直ぐ故郷へと帰り……とはならなかった、なぜか。
『おーいマル、聞こえてんだろー、おーい』
そう、クソマイペース野郎マルの子守りのためだった、遺憾の意。
おかしいと思ったんだよ、年内はマイルCSで終わりあとは休養して来年へってひょろさんたちが話しているのを聞いたのに牧場へと帰されるわけでもなく、なら年明け近くの重賞を狙ってるのかと思ったらそういった話も聞こえず、まあ俺の前で話される情報はある程度コントロールされてるっていうのはロメロのことでわかったから確実ではないが。
全く俺は馬だっていうのに一体何を考えているんだひょろさんは、まあ俺は理解してるから正しい対応だけどな!!!
体調を見ながら俺比で軽めの調教をこなす日々だったがそれが終わりを迎えた日は突然だった。
「よーし、ハナサンしばらくクレノファームに帰るからな、しっかりおめかししよう」
おめかしという名の輸送用の防具を身につけられこちらは素直にオシャレな馬着を着せて貰い兄ちゃんの後をパッカラパッカラ歩いて向かった先にはマルがいた。
それはもうご機嫌ナナメな、それこそ馬生で1度も見たことないレベルでご機嫌ナナメなマルだ。
『え、なにコイツ怖……』
ブフフン
「話に聞いてましたけどハナマルゴーゴー凄いですね」
「いやー、ハハハ、マルゴーが負けるとこうなるとは予想外だったよ」
『え、お前まけ『まけてないし!!!!!』そっかー』
いや、負けたんだろ、どっからどう見ても負けたんだろ、じゃなきゃなんでそんなご機嫌してんだ遅れて来た反抗期か?人間換算したらちょうど思春期くらいだからストレート反抗期か、でも違うだろうというのは明白。
それにしてもマルはただでさえデカい、その上黒い、なにが言いたいかって?威圧感半端ないんだ、多分子供が目にしたらギャン泣きするし、お前は覇王でもその背中に乗せるのかと問いたい。
『とりあえず落ち着けって』
ほーれ、はむはむはむ。
仕方ないので滅多にしないお返しのハムハムではなく俺からのハムハムだ、躊躇なく近づいて行く俺の引き綱を持った兄ちゃんはへっぴり腰、怖いよな今のマル。
マルの厩務員がジッとこちらを見つめている、そんな見つめられるとなんだか少し気恥ずかしい、しばらく続けているとマルの雰囲気が緩んで行く。
「おお!香港でのレース以来下降が止まらなかったマルゴーの機嫌が!不機嫌オーラのせいで一躍ボス扱いされ始めたマルゴーの機嫌が!!!」
「よかったですねー」
なにやってんだコイツ、お前絶対ボスとか無理だろ控えろよ。
『お前ボス扱いされてんの?』
プフヒン
『……しらない』
ブルル
ダメだな、少しはよくなったけどまだご機嫌ナナメはナナメだ。
しかしマルをボス扱いとか大丈夫か?いや確かにマルはデカいし生物としての強さは感じるけど性根がボスに不向き過ぎるだろ、すぐ寝るし。群れに何かあっても多分寝てるぜ?そもそもコイツあんまり他の馬に興味ないからな。
「これなら安全に帰せそうだ……」
「ハナサンを帰すならハナマルゴーゴーと一緒っていうのは丸井さんの希望ってことでしたけどここまで考えてたんですかね?」
「さあ、でもうちとしては助かったよ、本当に」
しみじみと言う厩務員に香港スプリント以来の苦労がうかがえた……いや本当なにやってんだコイツ。
「じゃあ入れましょうか」
そうして俺とマルは仕切りを挟んで同じ馬運車に乗り牧場への向かう、ここで冒頭に戻る。
『なあ無視すんなよ起きてるんだろ?』
『……なに』
『悔しいか?』
『……』
『俺さー、お前に言ってなかったけど負けたんだよな、1回』
『え?』
『それがクッソムカつくメスガキでさ!!!ロッカっていう白毛なんだけど』
『それで……?』
『あまりにムカついたから次一緒になった時圧倒的に負かしてやった!!!!!!!!!』
『……』
『だからよ、次の勝負でお前の方が強いってわからせてやれよ、俺を負かすこともあるマルが負けっぱなしだと俺がムカつく!!!!!』
『なにそれ……ハナも負けてたんだ』
『1回な!1回だけだぞ!!!』
『あー……悔しいな』
『うん』
『ムカつく……』
『それで?』
『だから僕は僕のために次は勝つ』
『そっか』
『帰ったら一緒に走ろうねハナ』
『うん?』
『馬房は向かい合わせで』
『え?いやそれはちょっと』
『お昼寝もしよー』
『マル?お前』
『楽しみだねー』
『あ、コイツもう俺の話聞いてねぇや』
俺にもマルにも放牧地や馬房を決める権限はないがどうせジイサンは俺をマルの世話係にするだろうからいいか。
機嫌悪いヤツと旅にならなかったからヨシ!




