第40話 俺、謝罪は甘く
古馬に混ざろうとも確かな強さを証明した俺は牧場へと帰郷……とは行かず未だに厩舎にいる、そして。
「ハナサンとてもゴキゲンナナメです」
「いやー、これは初めて見ますね」
馬房の前で話すロメロと兄ちゃんにケツを向けていた。
俺を選ばないロメロなんて拒否だ拒否!面会謝絶!!!当たり前だろ、そこにどんな理由があろうと選択したのはロメロで俺よりあの似非紳士を選んだロメロと顔を合わせるなんて俺の心によくない。
『かーえーれー!かーえーれー!さっさとかーえーれー!』
ブフーンブフーンブフフン
「顔は見えないけどすごいへそを曲げてるのはわかる」
「ハナサン……」
後方から気落ちしたロメロの声が聞こえる、そんな声を聞かせたら感情の機微に敏感な心優しい馬だったら思わず反応してしまうだろう!俺には通じないけどな!
実際お隣さんからは『人間大丈夫?お前構ってやったら?』って言われちまってるんだぞ、外堀から埋めて行くなんて卑怯者め。
「ハナサンロメロさんにも事情が『関係ないね!』」
「ハナサンワタシが悪かったです、でも同じセンタクをすることもきっとまたあるです」
『アァン!?』
「やっとこちら向いてくれた」
「うわ、すごいかわいくない顔してる」
『ハァァ?俺はいつでもビューティーホースですけどォ!?』
ブフンブルルル
謝罪に来たのかと思いきやまた同じことをする宣言をするロメロ、これ如何に、思わず体の方向を変えて兄ちゃんとロメロの方を見ちまった。
いやわかる、わかるぜ?騎手はどれだけ質の良い馬を回して貰うかで自分の評価と給金に直結するわけだし、どれだけ腕があったって騎乗ができないなら意味はないし、人付き合いは大切だよな、でも今ここで俺にそれ言う必要あるか?ないだろ。
兄ちゃんいわくすごくかわいくない顔のままロメロをじっと見つめる、どいつもこいつも稀代のビューティーホースに失礼な話だ。
「ハナサンと2人にしてもらっていいです?」
「はい、ハナサンなら心配ないと思うんで」
ロメロが兄ちゃんに声を掛けて兄ちゃんは離れて行く、ロメロは俺と目を合わせたまま手を伸ばし顔を軽く撫でてきた。
「そちらに行ってもいいかな」
『えー……しかたねぇな』
プヒュン
「今日も美しいね私の華」
馬房に入ってきたロメロが顔に続いて体を撫でる、馬になってから思うが人間、とりわけ騎手って人種は小さいよな、俺が今ちょっと暴れたらぽっくり逝っちまう脆さもある。
人間、弱い、俺、強い。
「君の怒りはもっともだ、それでも私は君を手放す気はないし最後のレースで鞍上にいるのは私だと思ってる」
「まあこれは今後の乗り方もあればオーナーの意向もあるから絶対とは言えないけどね」
「私の麗しの華、私は君となら何処でだって勝てると思ってる」
「君は私が出会ってきた中でもっとも気高く、美しく、そしてなにより強い」
『ふ、ふん!わかってんじゃねぇか、そうだよ俺は強いんだよ!だから俺を選んで当然つーかさ、ロメロだって勝利数とか賞金だって稼げるわけだし……』
「ところで私の最も愛すべき華にプレゼントがあるんだ」
『プレゼント?』
ブフン
ロメロがブルゾンのポケットから取り出したのは透明な袋に入った……クッキー!?
え、クッキー!?俺へのプレゼントって言ったよな俺クッキー食べていいの!?
『マジで!?!!???』
「平先生や丸井オーナーには許可を貰ってるから、私の手作りだよ」
『ロメロの手作りはプラスポイントにはならないけど!むしろ女の人のがいいけど!でもそれくれんの!?』
大興奮でチャカチャカと落ち着きがなくなる俺をロメロが笑う。
「君の口に合うといいな」
その言葉と共に差し出されるクッキー、俺は躊躇することなくそれを口にした。
新鮮な果物ならいくらでもオッチャンが届けてくれたし牧場や厩舎でも用意してくれた、俺のために配合を考えられたひょろさんのところの飯は最高だ、だがそれはそれとして馬となってから初めての調理らしい調理がされた食べ物。
これは……むむ、自然の味!!!いや素朴っていうのか?まあ当然ながら馬が食べられるもので構成されているので強烈な旨味がとかはない、ただ複数の甘味が入り混じり歯応えは人だった頃の記憶が刺激されなんとも心躍る。
『ロメロ、ロメロ、もう1枚!ヘイ!!!』
何も乗っていないロメロの手をハムハムする。
「気に入ってくれたかい?それなら許してくれる?」
『許す許すだから早く!まだあるの見えてんだぞ!寄越せ!』
ヒンヒヒィン
「どうぞ私の麗しの華、次は共に頑張ろうね」
うめ、うめ、クッキー、うめ。




