第39話 俺、騎手の違い
現実とはかくも残酷であり、縁とはとても儚いものだと実感した。
俺はこの勝負に必ず勝たなければならない、勝ってロメロに【クラブ馬と比較されて手離されたのに今更騎乗したかったと言われてももう遅い~選ばれなかった俺は誰を乗せても超一流!古馬を蹴散らしG1を取りまくるので忙しい~】をするからな!
やる気満々なままの俺、兄ちゃんやロメロだと俺を宥める作業に入るのだがマルの騎手はそうせずただ楽しそうに笑っているだけだ。
やるぞやるぞ俺はやるぞ!の俺をはたして制御できるかな!?とか言いながらまあマイルだからな、俺が暴走したとしてもある程度勝負になると踏んでいる可能性はある。
やる気とは別にゲート入りはいつも通りスムーズに済み今日は駄々をこねる馬もいなかったらしく開くのは目前。
開いた瞬間ポンッと前に出る誰にも負ける気がしないスタートの良さ、止まった状態からの加速にだって自信がある、これは生まれつきというよりは俺の人の思考力の賜物みたいなところがあるからな、むしろ負けたら困る。
「スゲーや」
そのままハナを取り駆ける俺の背でマルの騎手がそう呟いている、そうだろそうだろ?アイツの背中じゃ絶対味わえない感覚を今味わっているはずだ、俺とマルは正反対の走りだからな。
今回も秋華賞に続き俺と同じ逃げ馬はいるが前回とは違い内枠に入ったことで先頭は譲らずに済んだ、やっぱり先頭は最高だあのお惚気牝馬には二度と負けない……いや枠差なだけでそもそも逃げ馬としての能力的に負けたわけじゃないけど。
それにしても調教の時から感じていたがロメロとは乗せてる感覚がまるで違う、ロメロは俺の体に馴染む感じがするけどマルの騎手はいい具合に乗っているという感じがする、なんというかそこそこ!っていうところに重心があるというか、表現って難しいよな。
クソマイペース野郎のマルには存在感が常にあるこちらの方が合ってるだろう、俺はどんな騎手を乗せてもパーフェクトな走りをするスーパービューティーホースだから例外として騎手との相性ってのは俺たち馬にとっても大切なことだ。
今日はマイルで心配も少ないしどのような末脚を持った馬がいるかわからないため少しでも距離を稼ぎたい、まあその辺りはひょろさんが考えてマルの騎手に伝えて走っているだろうからそこまで心配はしていないがレースは所詮水物、走り始めたら鞍上と1人と1頭で走り抜くしかない。
俺を風除けにするようにぴったりと後方を走る馬からのプレッシャーは同世代のものとはやはり違う、それでも俺はあくまで自分の走りを貫く、そもそも今日俺の敵になると感じた馬はコイツではない。
それにしても京都競馬場ってなんでこんな坂があるんだ?なにを思って作られたのか知らないが馬にとってはいい迷惑である、コーナーに向けてパワーを要求され息を入れるタイミングも難しくコーナーに入ったかと思えば下りになっていく逃げ馬としては文句ばかりが溢れる作り。
前回相当に無茶をした俺だが今回は余裕がある、かと言って油断をすれば……そらコワイコワイ古馬たちのおなりだ、まあ?俺は油断してないけど!
トップスピードのまま馬身差をつけた状態でコーナーから直線へと入っていく、あとは何も考えずただひたすらにゴールを目指すのみ。
「ハナ!行け!!!!!」
マルの騎手がその声と共に手綱を動かす、おお、やっぱり本番は調教の時より更に強さがあるな!
ロメロとは異なる前へ進め、脚を緩めることは許さない、そう言っているような圧のある追う動作、やる気に溢れてる俺には心地いいしマルみたいに最後だけ本気出すヤツにはいい火付けとなっているだろうということがわかる。
マイル戦ということもあり大きく横に広がりかつ馬身差も少ない中、それでも俺は先頭を譲らず走り続ける、その時悪寒が走った。
そうだよな、やっぱり来るよな、来てくれなくちゃ困るところだったぜロメロ!
ロメロを鞍上に迎えた牡馬が猛然と追い上げてくる、余計に気合が入った俺は前へ前へと突き進む。
元々俺の後ろに付いていた逃げ馬はいつの間にかさがって行き他の馬が入り乱れる混戦模様、誰が相手だろうと関係ない俺は俺が1番だと証明するんだ!
『俺のケツを見てなァ!!!!!!!!!!!』
あと少し、逃げて、駆けて、その先は全ての馬を平等に出迎えるゴール。
空気を取り込みエネルギーを振り絞る、全力で走り切った俺は今日も勝者だ!!!!!!!!!!
先頭でゴール板を通り過ぎた、鞍上のマルの騎手が褒めながらベシベシと叩いて来る、べつに痛くはないがちょっと乱暴なヤツだな?まあクソマイペース野郎にはこれくらい激しいのがちょうどいいのかもしれない。
徐々にスピードを落とす中近付いてくる1頭の牡馬がいた、ロメロが騎乗している牡馬だ。
レース前ちらりとすらこちらに視線を向けることのなかったロメロが今更何の用だ?と思ったがどうやらロメロが指示を出して近付いてきたわけでは無さそうなことがその表情でわかる。
俺の隣を並んで歩く牡馬は乱れた呼吸を整えながら話し掛けてきた。
『レディ、あまり先ほどのようなことは言わないほうがいいよ』
『先ほど……?』
『うーん、無意識なのかな?ほらケツを見ろだとか……』
『エ』
『私は紳士だから問題ないが世の中同じような紳士ばかりではないからね、勘違いされたら困るだろう?』
『アッ、ハイ』
『うんわかったならいいさ、いい走りだったよレディ』
『アザス』
そう俺に忠告してからロメロが騎乗する牡馬は待機所へと向かって行った。
股関に長いモンをぶら下げながら。
なあ、アンタのナニは紳士じゃなかったみたいだぜ……。




