第38話 俺、残酷な現実
『ねぇ君美人だねー見たことないし年上と走るの初めてだったりする?』
『どんな距離が好き?俺ちゃんはマイル!知ってる?今回のレースもマイルなんだぜー』
『いやー俺ちゃんの走り見たら君惚れちゃうかもなー!どう?俺と一発』
前回の秋華賞ではお惚気牝馬、今回のマイルCSではウザいアホ牡馬に絡まれている……俺にとってパドックはトラブル吸引場所なのか?
そしてこのアホはめげない、俺はさっきから一切返事をしていないのに1頭で喋る喋る凄いよな人間に産まれてたらそれで金稼げたかもしれないぜ、今は馬だから関係なくウザいだけ、といってもこの場にいる以上競走馬の中では上澄み中の上澄みではあるわけだが。
アホ牡馬を無視して周りを見渡す、さすがは古馬が主体となるG1だパドックを歩く馬たちは今までの同世代の馬とはその存在感が違う、こんなアホ牡馬であろうとメスガキと同じかそれ以上のナニかを感じるしな。
『君はマイルピッタ?それとも長めが好き?短めが好き?』
『あ、太めが好きなら俺ちゃんと相性きっといいぜ!』
『意味通じてる?っていうかマジクールだね君クールビューティー』
いやマジで黙んねぇなコイツ!?出会った瞬間からずっとブフブフいっているアホ牡馬にその引き綱を持ったジイサンは困った顔をしながらその首を撫でている、俺の引き綱を持った兄ちゃんも苦笑いだ。
それでも俺は無視をする、ここまで来たら反応したら負けな気がするし何より反応したが最後ずっと粘着される予感がするんだ、結構パドックグルグルしたしそろそろ騎手も来る頃だろう。
マルの騎手早く来ねぇかなー、他の騎手がチラホラと来る中今回俺の鞍上となるマルの騎手はまだ来ていなかった、前のレースでも乗っていたのかもしれない、まあ全然違う理由かもしれないしそもそもどういう順番で来てるかとか知らないんだけどな俺は。
パッカパッカのんびりと歩く中ふと視界に入った姿、見慣れない勝負服を着た見覚えのあり過ぎる姿、初めて見る牡馬の背へと乗り上げる姿、思わず二度見してしまった。
『ロ、メロ……!?』
プヒュヒン
「あ、あー……ハナサン、こう、がんばろうな」
俺以外の馬に跨るロメロの存在に気付いたことを察したらしい兄ちゃんがそう声を掛けて来る。
当然だが兄ちゃん知ってたな……?ロメロが怪我をしたという話は聞かなかったが俺の前でその話題を出す必要があるかと言えばないので聞いていないだけなのかもしれないと思っていた、だが事実は違いきっと普段の様子から察するにひょろさんたちはあえて俺の前でロメロの話をしなかったんだ。
ロメロが着ている勝負服は俺がこれまでG1を走った時少なくとも1頭多い時は複数頭の鞍上が纏い目にしていたもの、つまりG1戦線に出る牝馬をコンスタントに送り出しているような馬主、推定クラブ馬たちの鞍上と同一のものだった。
ロメロが乗っている牡馬は俺より年上、つまり古馬で主戦がロメロ、クラブのお手馬か、それとも個人馬主のお手馬か、きっと今回のマイルCSでロメロはその選択を迫られたんだ。
かたやクラブ、所有数が多くG1への出走機会も俺が走る時必ずいたことから高いことが伺えるいわゆる名門と呼ばれる部類のクラブだろう、古馬に乗っていることや牝馬のと呼ばれるロメロのことだ多分付き合いは長く他にもお手馬が多くいるのかもしれない。
かたや個人馬主、三冠を取り飛ぶ鳥を落とす勢いの牝馬ではあるがひょろさんの話を思い出す限り元からオッチャンとの縁があったわけではなさそう、俺以外にオッチャン所有のお手馬はいないだろうし、仮に俺との縁から増えたとしても片手でおさまると思う。
……まあ色々なことを考えたらあちらの馬を選ぶのは仕方ないことだ。
ただ?それと感情とは別の話で?俺を選ばなかったロメロのことはクソだと思ってるけどな!!!!!!!!
『へー、ふーん、なるほど、そういうことな!最初からそういう男だと思ってたんだよ俺は!!!』
ブルルルゥゥ
全てを理解した俺は耳を後ろに倒しながら兄ちゃんの手をハムハムする、これするとちょっと落ち着く。
「今日はよろしくお願いします……ってなんだかハナちゃんやる気満々だね?」
「あの……ロメロさんがあっちに」
「あー、なるほど、うん、やっぱり賢い子だよねハナちゃん」
俺の様子がいつもと異なることに気付いたらしいマルの騎手が兄ちゃんと話俺とロメロを交互に見てから軽く笑う。
『オイマルのぉ!絶対勝つぞ!!!』
ヒヒィーン
「入れ込み過ぎはよくないけど、まあそこは俺の技量ってことかな。今日は俺と一緒にがんばろうハナちゃん」
おうよ!
おのれロメロ俺を選ばなかったこと後悔させてやる!!!!!!!!!




