第34話 俺、牝馬ってわからない
『初めて会った時はなんだかとても暑苦しい方……と思ったのですよ?』
『ふーん』
『けれど怪我をして走れない不甲斐ないワタクシにも君なら大丈夫きっと一緒に走ろうと寄り添ってくれて』
『へー』
『それでワタクシは思ったのです、この方に全てを捧げましょう!……と』
『ほーん』
さっさとロメロたち来ねぇかなー!
『ちゃんと聞いてらっしゃる?』
『聞いてる聞いてる』
『それならよいのですけど、そもそもワタクシは……』
早く終わんねぇかなー!
俺はこの延々お惚気垂れ流し牝馬になぜかロックオンされてしまった、口を開けば愛しか語らない、誰へのって鞍上への……そういえばコイツの騎手はジイサンと同じで馬へ言葉が伝わるタイプなんだなと思う、そうでなければこの牝馬が脳内で勝手にこう言ってる!という思考のもと話していることになるのでぜひそうであって欲しい、俺は全ての人間の言葉が普通に理解できるから【馬に言葉の意味が通じる人間】か【馬に言葉の意味が通じない人間】かの判別がつかないんだ。
『ワタクシは愛しいあの方とならどこまでも駆け抜けられると、そう思っておりますの』
『そっかー』
『だからアナタ、タカネノハナさんとおっしゃるのでしょう?』
『そうだけど、俺のこと知ってんの?』
『ええ、あの方から……だからこそ、ゆえに、ワタクシはアナタにだけは負けませんことよ!!!』
惚気聞かされてると思ったら今度は宣戦布告されたでござる。
見ず知らずの馬に反感を持たれるっていうのは強者ならではのアレかとも思うが、なんかコイツに関していうと違う気がするんだよな……。
『ああ!愛しい方!優しいその瞳!今日もとても素敵ですわ!』
そうこうしているうちに騎手たちの登場だ、さてコイツがそんなに首ったけな騎手はどんなヤツなんだろう。
歓喜の嘶きをしている牝馬に近付いて行く騎手を見るとそこにはゴリ……しっかりとした眉毛につぶらな瞳、角張った輪郭に短い髪の濃い目な男がいた。
そうか、コイツが白馬……じゃなかった、鹿毛に乗る王子様か。
俺は悪くないと思うぜ、誠実そうだし、一途に愛してくれるタイプなんじゃね?しらんけど、まあそもそも馬からしたら人の美醜なんてわからないし基準自体違うしなきっと、そういう意味では見た目でなく自分に何をしてくれたかって基準で惚れ込んでるお惚気牝馬はかわいいヤツなのかもしれない、ウザイけど。
愛しの鞍上が来たことによってお惚気牝馬から解放された俺は兄ちゃんに撫でられて慰められていた、いや俺が顔を押し付けたから撫でてくれてるだけで兄ちゃんは慰めてるつもりなんてないだろうけどな。
お惚気牝馬が遠のいたと思ったら次はまた違う牝馬、白いメスガキが俺へと寄って来る。
『……ねぇ、あの子ヤバくない?』
奇遇だなメスガキ俺もそう思う。
『かなりヤバい……お前アイツ居たから今日絡んで来てなかったのか?』
『いや!ちが!ってかいつも絡んでるわけじゃないし!?』
『えー、そう?』
レースで一緒になるといっつも絡まれてる気するんだけどな、あ、ただただ見つめられてる時もあったか。
『そう!皆自分を気にしてるみたいな自意識過剰やめてくれるぅ?』
『でもあの牝馬は俺のこと知った上で宣戦布告して来たし』
『は?』
いつもよりトーンの落ちた声で耳を後ろに倒すメスガキ、そこは聞こえてなかったのか、というかなんだよ怖いな。
『はぁ?あのぽっと出牝馬が?宣戦布告……?』
『俺だけには負けないってよ』
『なにそれウケるぅ、ワタシ今まであの子と一緒になったことないんだけど』
『俺もないけど』
『今までワタシたちと同じ舞台に上がったことないザァコがなに調子乗ってるのかなぁ』
え、怖、助けてロメロ。
他の騎手も続々と来る中俺も主戦騎手であるロメロを出迎え背に乗せた、メスガキの方も来てるしいったん離れた方がいいなこれは、触らぬ神に祟りなしってヤツだ。
「元気に走って帰ってこいよハナサン」
「今日もガンバルですハナサン」
あいあいさー!なんか色々出鼻くじかれた気分だけどとってやるぜ秋華賞!!!




