第30話 俺、桃色予想外
祝!俺オークス出走!!!
普通に出走できるだろって思うか?けどそうでもないんだよ、牝馬は牡馬より短い距離を走ることが多いしオークスって2400mを駆ける牝馬限定戦の中では最長距離のG1だからな、適性が足らないと判断されていたらマルと同じNHKマイルカップに出走していた世界線だってあったかもしれない。
そんなわけで堂々と桜花賞馬タカネノハナパドックにいざ参戦!
ん……?うん!?
颯爽と兄ちゃんに連れられパドックへ足を踏み入れた俺だが直ぐ不思議な既視感を覚え頭を傾けながら周りの様子を見る。
そこでようやくはっきりと気付いた、見覚えのあるハートがひっくり返ったような、または桃のような特徴的な模様が額にある牝馬。
『モモ!?モモじゃねぇか!久しぶり!元気だったか?』
『なに……ああ、ハナ久しぶりアタシは元気よ』
『さっきからキョロキョロしてどうしたんだ?』
『今日はひらひらが見当たらないの』
『そっか……』
兄ちゃんを慌てさせながら列を無視して近付いた先、幼馴染のモモは相変わらずの夢見がちガールだった、けどこんなところでモモに出会うなんて、俺としては少しばかり予想外。
それにしても俺のいた牧場すごくない?牧場というかとねっこ時代一緒に放牧されていた仲間というか、G1出走が4頭中3頭だぜ、しかもモモがどうやって出走権を得たかわからないがその内2頭は確実にG1馬だ、シロのヤツも元気にしてるかな。
『今日も俺が勝つからな』
『アンタのその自信どこから来るんだか、まあアタシはアタシでがんばるから!』
モモに一通り絡む間どこからか熱い視線を感じたが浮かれていた俺はその先を気にかけることはなかった、あと担当の兄ちゃんとモモの担当のオッサンはなんかごめんな、ついテンション上がっちゃったんだよ。
幼馴染が無事競走馬として勝ち上がり同じ舞台に立つなんて、マルはわかる、だが俺のセンサー的にモモはその対象じゃなかったからな。
「ハナサンとってもゴキゲンです」
列に加わり歩いていると騎乗するために近付いて来たロメロがそう言う、気付かれたか。
まあちょっと久しぶりに会った幼馴染を前にカッコイイところを見せたくなったわけで、頼むぜロメロ。
ご機嫌のまま本馬場入場へ移り桜花賞の時考えていたように初めて意図的にしたグルグルは観客に大ウケで大満足である。
俺は俺が対象として盛り上がるのがやはり好きだ、これからもやろうと軽い足取りでターフを走り輪乗りへ、この時もずっと視線を感じていたわけだがあえて触れる必要も感じなかったためそのまま出走のためゲートへと移動した。
さあ、いよいよ牝馬2冠目、東京競馬場2400m優駿牝馬スタートだ!
ゲートを飛び出した俺の他にハナを取りたがる逃げ馬はいない、だがやっぱり来るよなモモは!
俺をマークするように走る姿、牧場でもそうだった、俺が先頭でモモがその後ろ、離れてシロがいてそれを基準にするようにマルのヤツが最後尾。
人間基準でいったらそれほど昔のことではない、ただ馬になったからか幼駒のころの思い出は遠く、そして輝かしく今この時並んで走ることに心が躍る。
負けないことは大前提として俺は今モモと2頭走ることを楽しんでいた。
『ワタシを無視するなああああああああ!!!』
そんな中第3コーナーに入ったところで俺とモモの間に割って入るように駆ける白い馬体。
だがメスガキよそれはダメだろ?これがマイル戦だったら構わない、けど今回は2400mいわゆるクラシックディスタンス、そんな甘くないぜ、何より一緒に走るのは俺なんだからな。
コーナーを曲がり直線に入った、ゴールまではまだ距離がある。
横のメスガキとモモはいつ更に加速するのか。
俺はいつも通り直線前溜めた足でギアを上げる。
モモは俺に呼応するように速度を上げた、メスガキはやはり仕掛けが早過ぎたのか伸びて来ない、それ以外の後続馬とは距離がある、モモとの一騎打ちだ!
まるで幼駒のころのように、何度も、何度も共に駆けた時と同じ、最終直線で斜め後ろにモモがいる。
一層弾むように、軽やかに、伸びやかに駆ける俺たち、だがそれももう終わりゴールが近い。
狙い最高速のまま駆け抜ける俺、モモは半馬身後ろ、小さな違和感を残したままゴールする。
『よっしゃあ!俺の勝ち!』
「今日も美しい走りだったよ私の華」
鞍上のロメロは俺を褒めながら首を撫でてくれる、これをやられると勝ったって感じするよな。
『ああ!もう!また足りない!』
少し離れたところで俺に負けたことを悔しがるよりも先にそう嘆いているモモ、足りない、とは。
隣を走っていて感じた違和感、ゴール地点ではまだ最高速に至っていない……?もしかしてモモはステイヤーの性質が強いのか?
そうだ、思えばマルのヤツは寝てるかそうでなくても寝転がってることが多く、シロのヤツは常にヒンヒンと泣きを入れるレベル、幼駒のころから厩舎に入るまで常に一緒に駆けていたのはモモだった、スタミナ自慢の俺に勝てはしなくてもついて来てたんだよなモモは。
これはあくまで想像だが2400mでもモモのスタミナの消費と最高速が噛み合うには短かったのかもしれない。
幼馴染の気付いていなかった一面に驚き、そして牝馬のステイヤーとして生きるであろうモモの将来を思いながらジッと見つめる。
『だからワタシのこと無視するなって言ってるんだけどぉ!聞こえてる!?』
うるさいぞメスガキィ!!!




