第29話 俺、共に走る
「本当ごめんね平君、タカネノハナは大丈夫?」
「桜花賞の後も疲れを見せないですし問題ないと判断してお受けしたので大丈夫ですよ」
「ありがとう本当助かるわ、マルゴーのヤツどうもピリッとしなくてね」
俺と、そしてマルの前で話をする男が2人、1人は俺の調教師であるひょろさんもう1人はひょろさんより年かさのオッサン、多分話してる感じからしてマルの所属する厩舎の調教師なんだろう。
マルと言えばクソマイペース野郎を発揮してご機嫌に俺の首をハムハムしている、騎乗している人は苦笑いだ。
「ハナマルゴーゴーはNHKマイルカップ目標ですよね」
「そうそ、例年なら皐月賞も考えたけど今年はほら、東のがさ」
「ああ……自分でもそう判断すると思います」
「そういうこと、じゃ、始めて貰おうか」
なにを?俺マルと走ることしかわかってないんですけど?と思うが何をするかは騎乗者が知っていたらいい、俺の鞍上は当然ロメロ……じゃないんだよな調教だし。
俺の背にはロメロではなく橙色のヘルメットを被った兄ちゃんが、マルの背には青色のヘルメットを被った兄ちゃんがそれぞれ乗っている、青色は騎手のはずだからマルの主戦騎手か?マルの調教師が世話してる騎手の可能性もあるが。
『なあマルお前の背中乗ってんのって主戦騎手?』
『主戦騎手ってなーに?』
『レースの時いつも乗ってる人間』
『それならそうだよー』
ほう、これがマルの主戦、騎手の見た目はあまり年齢の参考にならないことも多いが若そうだな、20代半ばってところか?シュッとしている、ロメロといい俺の周りは顔がいい騎手多くない?特に意味はないけど遺憾の意。
しかし主戦騎手なのか、マルと顔を合わせることはそれなりにあっても主戦騎手が乗っている時に走った経験はない、マルと俺は適性が被るところもあるわけでてっきり意図的に避けているのかと思ってたがそうじゃないのか?馬主がオッチャンで同じだからか、調教師同士助け合いの精神なのか、ひょろさんの考えることはわからないな。
「よろしくねタカネノハナちゃん」
ニコニコと笑顔で声を掛けて来るマルの鞍上、何気にちゃん付けで呼びかけられたのは馬として産まれてから初めてかもしれない、オッチャンのはあくまで紹介って感じでハイパーミラクルプリティーぷくぷくまるまるキッズの呼び名は【はなちゃ】だからな、ちゃん付けとはまた違うこれでひとつの特別な呼び方だと主張しておく。
「行こうかハナサン」
調教師の声に応じて兄ちゃんたち2人が俺とマルを促す、まずは軽く動いて体を温める、パッパカ歩いている時に歩様など異常がないかのチェックもしているらしい、自分の異変というものに鈍くなったので周りの兄ちゃんたちにはぜひがんばっていただきたい。
体がしっかり温まったら本格的な調教の開始だ、人間だって準備運動せずに動いたら体を痛めたりするしな、特に脚の不調がイコールで生死にすら関わる俺たちには重要なことだ。
「よし、じゃあ併せ馬行こうか」
「はい、よろしくお願いします」
兄ちゃんたちが言葉を交わす、お、いよいよマルと併せ馬か!
一緒に歩いている時から始終ご機嫌なマル、こういう時のコイツって特にヤバいんだよな、大丈夫か?これ追い切りじゃないんだよね?
最初は普通に走っているだけだった、といっても牧場にいたころと違って2頭の今は何馬身も離れているわけじゃなくマルの位置取りはだいぶ俺に近いが。
ただ問題は最後の直線に入ったところ、途端にマルの方から強烈なプレッシャーを感じた、ただでさえデカいのに余計デカく感じる圧倒的存在感、一歩一歩と駆ける姿はさながら重戦車のようだ。
オイオイオイ!これは併せ馬!そんな本気で走るもんじゃねぇんだぞ!
そう思いながらも実は先に仕掛けたというか、思わず負けず嫌いが発揮しギアを上げたのは俺なので文句は言えない。
併せ馬だろうと先着は先着、勝ちは勝ち、俺たちはいつだって真剣勝負!とまではいかないが誰にだって負けたくない相手ってのはいるだろ、俺にとってそれはマルだし、マルにとっては俺なんだろう。
競り合い駆ける俺たち、木片が足元で踊る、目標として定められている地点を先に過ぎたのは……マルだ。
『くっそおおおお!』
「テキ!マルゴーはやっぱヤバいですよ!もう今日はとくになんかヤバいっス!」
「ヤバいだけじゃわからんぞもっと具体的に言え」
「いや、こう、半端ないっス!」
「お前は語彙力もっとつけろって前から言ってんだろ!だからお笑いインタビューとか言われんだぞ!」
俺が悔しがり兄ちゃんに宥められてる横でマルの調教師と主戦騎手がヤイヤイと騒いでいる、だがどちらも満足気な顔をしているし俺と一緒に調教した結果は上々という認識なのだろう。
『俺に勝つんだから俺以外に負けるとか許さねぇからな!』
『うーん、がんばるー』
しっかり走ってこいよマル。




