第3話 俺、決意する
『外きっもちー!』
驚愕の事実が発覚したがそれで唐突になにかできるというわけではなかった、当然である、だって俺は馬だしかわいいベイビーだから。
最初なんとか立ち上がったあともしばらくはあっちにふらりこっちにふらり、自分の思うように動かない体を動かしてそれに段々と慣れて行き、母ちゃんの乳をゴックゴックと飲みグースカと寝てすくすく成長していたらいいなあと思いながら日々を過ごし、そしてある日には母ちゃんと一緒に外に出され世界の広さを知った、いや元から知ってたけどな人間だったしなんなら今見てる世界よりずっと世界は広いことだって知っている。
俺は馬に産まれたこれはギャグではない、そして馬の中でもサラブレットと呼ばれる競走馬になるべく交配された種類であるとの認識もしている、それは俺がオギャった時にいたジイサンや他の人間であったり母ちゃんの話からまず間違いない、なんていったってこのスラッとした脚は最速の機能美うんたらと将来言われても過言ではない美脚っぷりである。
『なあなあ母ちゃんって重賞馬だったんだろ?強い馬いっぱいいた?』
『かわいいベイビーは好奇心旺盛ねぇ、もちろんいたわよとっても足が速い子にスタミナが凄い子、でも私が一番だったわ!』
『母ちゃんスッゲー!』
『うふふ、かわいいベイビーお口がよろしくないのは誰に似たのかしら?』
母ちゃんはちょっと自意識が大変よろしいタイプだ、だが重賞馬というのはジイサンが口にしていたし間違いなく数多の競走馬の中では相当上位であることは間違いない。
ここで唐突だが俺の競馬に関する知識について語ろう、俺は実際の競馬というものはそれほど熱心に見ていたわけではない、G1レースだと推し騎手や推し馬の血統に豆券で賭けて気分だけ楽しんでいたがそれだけ、では知識の源はなにか、そうゲームである、ゲームも様々だ実馬を元にしたシミュレーションから仮名でぶっ飛んだものはたまた擬人化までそういったものに触れる人間はあの頃少なくなかったと思う。
『母ちゃんって何歳まで走ってたんだ?』
『走るってあの騒がしい場所での話?さあ……わからないわ、けどアナタのお姉さんは四頭産んだわね』
現役引退の馬齢はわからないが俺には姉が四頭いるのかジイサンが牝馬ばっかりって言ってたもんな、それにジイサンの話によると俺の姉達はそこそこ走ってるらしい、血統がよろしいと聞く重賞馬の母、姉達の走りも悪くない、そう詳しくない人にもわかりやすく言おう俺は繫殖入り待ったなしの星のもとに産まれてしまった、そもそも繫殖入りってなんだ?って?
アハンがウフンでズコンバコンだよ!!!!!!!!!!!!!
恐ろしいことである、とてもつなく恐ろしいことである、俺は今世牝馬として産まれた、しかしこうして自我を強く持っているので人の男としての意識が否応なく主張してくるのだ。
だんことして牡馬との種付けを拒否せねばならぬと!
ではどうしたら地獄の日が遠退きあわよくば回避できるかを考えよう、まず誰に所有されるかというのはとても大切である。クラブ馬はダメだ俺もそこまで詳しくないがクラブ馬だと何歳には繫殖入りだから競走馬としての能力が充実して来た状態でも引退などあると聞いた、できるなら長く走らせるのが好きな個人に所有されたい、どうがんばったら良いかわからないが牧場に来た金持ってそうな人には媚びを売ろう、俺のプリティーフェイスが火を吹くぜ。
次に競走馬としての成績だ、まず俺の場合走りがよくないからと悲しき運命を辿ることはほぼないだろう一般的馬ならそれで御の字だろうが俺は違う、走りがよくないなら早々に繫殖に回そう、確率的にこちらがとても高い!断固拒否である!そのため俺はもっと走る姿を見たいとそう思うような競走馬にならないといけない、これもどうがんばったらよくわからないがトレーニングして困ることはないだろう人間の頭脳をもって全力で走りを鍛えていく。
まとめよう、目指すは個人馬主に所有される強い競走馬!強いっていうのも基準次第だがわかりやすいのはやはり最高峰グレード1、いわゆるG1レースを優勝することだろうだから目指すのはそこだ。
「パトラー、ハナー、帰るぞー」
ジイサンが俺と母ちゃんを呼ぶ声がする、母ちゃんが俺を促すのでとっとこジイサンに近づいて寝床に帰還だ、あ、ハナって言うのは俺のあだ名?だ、額にある模様がぐるぐるして花弁みたいらしい、さすが俺プリティー。
『ジイサン!俺はやるぞやるぞ!G1馬になって牡馬を蹴散らす覇王になる!』
「そうかそうかがんばれよー」