第26話 俺、オシャレ番長
故郷でたっぷり英気を養った俺は再びひょろさんの管理する厩舎へと移動し春の3歳牝馬戦線に加わるため調教を開始した、よく遊びよく食べよく甘やかされよく褒めそやされた帰郷には大満足である。
あえて不満点をあげるならオッチャンが会いに来てくれなかったことだ……てっきり牧場に帰ったらオッチャンはもちろんなんならハイパーミラクルプリティーぷくぷくまるまるキッズと一緒に俺を愛でに来ると思っていたのに、まあそれなりの年齢なオッチャンや逆に幼すぎる子供にとって真冬の北海道は体によくないか、風邪引くかもしれないし、そういうことだよな?
そして今の俺の現在地はまたパドック、今日の舞台は前回優勝した阪神JFと同じ阪神競馬場1600m、そう牝馬三冠の一冠目桜花賞だよ!
ひょろさんとオッチャンの話し合いは無事に大きいところだけに絞って出走するという方向性になったようだ、まあこれを続けるには俺が勝ち続ける……までいかなくても好走する必要があるわけだが、俺としてはドンとこい、負ける気ないしな。
ただマルを相手取ったらどうなるか、もちろん負ける気はない!ないが現実としてマルは強い、適正距離が被る以上同じレースを目標とすることもあるだろう、オッチャンは使い分けとかするのだろうか?そのあたりをどう考えているかはまだ俺にはわからないがきっと無理な距離延長や短縮はしないと信じている、オッチャンもひょろさんも俺大好きだし。
『なあなあ兄ちゃん!アレ!アレ見てくれよアレ!』
「どうしたハナサンご機嫌だな、オシャレしてるからか?」
帰郷していた時突然俺のたてがみを編みパシャパシャと写真を撮っていたジイサンはどうやらひょろさんのところに伝えていたらしい、どう伝えたかは知らないが厩舎に移ったあと兄ちゃんが「嫌だったらすぐやめるからな」とか言って徐々に練習していったので多分編みこまれるのを嫌がらないとかそういうことだろう。
そんな経緯があり今日の俺はたてがみを幾つもの束で別け三つ編みにしているオシャレさんである、実はここで初めて明かすがバンデージもつけている色は水色に黒いライン、今回の三つ編みを纏めているのも水色と黒、オッチャンの勝負服とは違うしひょろさんの厩舎カラーか?
確かに編み込みとか手のかかることをされて愛され感マシマシでご機嫌なのもあるけどそうじゃない、俺の視線の先には色とりどりの布地、そう俺が生きていた頃そして俺の生きていた場所では自粛から一部絶えてしまった横断幕の文化がここでは生きている。
そしてその中にあるのだ、阪神JFの時にはなかった、俺の名前と一緒に一文書かれた横断幕。
【誰より速く咲き誇れ】
誰より速く、うん、いいな!早くじゃなく速くっていうのがいい!
【すべてを惑わし走り抜けろ】
なんだ幻惑逃げをご希望か?そこはロメロ次第だ。
【皇帝を魅了する女王】
……どういう意味だ?
【新馬戦の激闘をもう一度】
これ俺イジられてるな!?オイ!タダじゃないだろうになんでわざわざネタに走った!だからこそか……?
まったく、何を考えているんだか、遺憾の意でもあるが横断幕の数があるっていうこと自体は素直に嬉しい。これからももっと増やしていきたい、なんなら全部俺の横断幕で埋める勢いだっていい、ただし真面目なヤツな!
内容は別として新馬戦から見て応援してくれているファンの存在というものを俺は初めて認識した、そりゃあ新馬戦からチェックして応援する人たちがいるのは知っていた、知っていたが自分にとなるとなかなか実感はしにくいもので、正直テンションぶち上げである。
パッパカご機嫌にパドックを歩き始めた俺に忍び寄るひとつの影。
『あー、前のレースでいなかったらてっきり逃げちゃった?みたいに思ってたぁ』
『ハァン!?なんだお前かよ、前のレース……ああ俺前哨戦もう出ないからな』
俺は逃げ馬だが絶対その逃げではない逃げプークスな波動を感じさせる言葉を使う牝馬、そう白いメスガキである。
前のレースとは多分メスガキは桜花賞の前哨戦であるどこかを走って来たのだろう、前回いろんな意味で敗走したにも関わらず今日はまた自信を取り戻し生意気そうなメスガキっぷりがにじみ出ている、この自信チューリップ賞あたりか?いやメスガキがその辺り理解してるか知らないが。
『どゆこと……?』
『どゆことって言われても、今日みたいな』
「はなちゃー」
この声は!!!!!!
そこにはオッチャンの息子に抱えられたハイパーミラクルプリティーぷくぷくまるまるキッズの姿、一瞬で俺の思考から白いメスガキの存在は抹消され列を乱してそちらに向かおうとする。
が、兄ちゃんに引き綱を引っ張られる、後生だ兄ちゃん!俺をあっちに行かせてくれ!あそこに俺を待ってくれてるかわいこちゃんが!
『ちょっと聞いてるぅ!?』
黙れメスガキ!貴様に俺が癒せるか!!!!!




