第23話 俺、わからせる走り
タカネノハナは憤怒した。必ず、かの邪知暴虐のメスガキをわからせ返さねばならぬと決意した。タカネノハナはメスガキが好きである。何度もお世話になった。けれども現実でわからせられるのには、馬一倍敏感であった。
そう、負けず嫌いなのである!
メスガキ事件から俺は修羅となった、と言っても必要以上の特訓は物理的に止められてしまうからできないので前以上に考えながら走ったし調教では誰が鞍上でも油断なく指示を受け止め鍛え上げて来た。
あの雪辱を果たす舞台は今日ここ、冬の阪神競馬場1600m2歳牝馬の女王を決める阪神ジュベナイルフィリーズだ。
パドックではまるであのメスガキが女王であるかのように闊歩している、アルテミスステークスは阪神ジュベナイルフィリーズの前哨戦と位置づけられているためそれは仕方ないことだ、仕方ないことだがそれと怒りを覚えるのはまた別の話でカッツカッツと白い馬体を睨み付けながら蹄を鳴らす俺を心配そうに兄ちゃんが見ている。
悪いな兄ちゃん、直接吹っかけに行くなんてことはしないから安心してくれよ、前にロメロが言っていた通り勝負はターフの上でつけてやる。
「ハナサンのキアイすごいです」
「今日は俺らの太鼓判つきのハナサンですよ」
騎乗するためにやって来たロメロと兄ちゃんが話す、そうだろ今日の俺はひょろさん始め厩舎一同太鼓判の仕上がりである。
前回と異なりしっかりと搾り鍛えた体はムキムキパァンと言った感じだ、調教の時併せ馬をした別の厩舎の人に「2歳牝馬、だよね?」と言われるくらいにはバッキバキで走りもキレッキレ。
アルテミスステークスの反省を生かし落ち着いて本馬場入場やら輪乗りやらを終えてのゲート入り……本馬場に入った時ロメロが「今日は回らない?」と言って来たがなんのことだろう。
さあいよいよだ、いよいよ、今日は絶対に負けない!俺がわからせてやる!!!
音を立ててゲートが開く、毎度お馴染みにしたい俺の完璧な飛び出しでスタート。
出足行き足の良さは俺の売りってね、他馬より良い反応で早速馬身差をつける。
何度見たって飽きない他を置き去りにした景色はやっぱり最高だ、走るなら先頭に限る、マルみたいに最後だけ本気出すっていうのもロマンとひりつきはあるけど俺みたいにハナを切ってそのまま最後まで駆け抜けるのかどうかってのもロマンがあるんだよと俺は主張したい。
冬の冷たい風が全身を撫でて行く、俺は馬になってから寒さに強くなったけどロメロって寒くないのか?重さの問題もあるから厚着も出来ず騎乗するとか……、人間だったころを考えると拷問か?と言いたくなりそうなものだが、運動してるから大丈夫理論か、体育会系の考えはわからん。
などと考える余裕すらある、前回と違い体が軽いし脚も回る、新馬戦のようなマークもない独走状態、いいのか?俺の脚は止まったりしない、このまま行っちまうぜ。
最終コーナーを回っても俺の後方につけている馬はいない、ここから差し追い込み馬が来る可能性もあるかもしれないが開いた差を埋められるほどの脚を持っているヤツがいるとは俺には思えなかった。
動物としての本能なのかなんとなくコイツは自分より強いだとか、弱いだとか、そういった類のものは対面したらわかる、メスガキだって俺より強いとは感じなかった……だからこそ屈辱感が増したわけで。
誰も俺の影すら踏めない、もう全力で走る必要はないのだろうロメロが追うのをやめた、だが俺は走り続けるなぜなら絶対的な差でわからせる必要があるからだ。
ゴール板を通り過ぎても後方の馬群の足音は遠く何馬身差がついているのかという具合、これは完勝だ!
「おめでとう可愛い私の蕾、君が女王だ」
昂りを抑えることなく後続でゴールし速度を緩める馬群の方へと足を向ける、鞍上のロメロが戸惑ったように手綱を引く、悪いな俺にはやらなきゃならないことがあるんだ。
色とりどりの牝馬たちがいる中俺にはただ1頭しか目に入らない、そう白いメスガキである、俺はあの日を再現するように周りを歩いた、配役は逆だ。
『あんな我が物顔で歩いてたけど女王は俺でしたぁ、お前の負けぇ!なあなあ今どんな気持ち?』
『ふ、ぐ、次はまた勝ってやるんだからあああああああ!!!』
そう叫びながらパカラッパカラッ遠退く純白の馬体を俺はとても満たされた気持ちで見送る。
メスガキ成敗!




