第22話 俺、煽って来るメスガキのわからせ
『えー、なんかデブいるんですけどぉ、来る場所間違えちゃった感じー?』
『アァン!?』
『振り返るってことは自覚あるんだぁ』
なんだメスガキィ!!!
あれから俺はパッパカ走りジャブジャブ泳ぎ体を絞った、絞った、が、ひょろさんいわく今日のレースは叩きで本命の仕上げはまだ先だから絞り過ぎない程度にあえて、あえて!太めに残してあるんだ。
それを知らないくせにビューティーホースの俺の見た目についてバカにしてくるとはどれだけの美馬なのかと振り返る俺、に驚く兄ちゃん、ごめん。
俺は今アルテミスステークスのパドックにいる、新馬戦の勝ちから見事に重賞デビューだ、にわかな俺だが好きな馬の産駒の勝ち鞍だから知ってた、ひょろさんにはナイスレース選択と言いたい。
だからさきほどまでご機嫌だったというのにこのメスガキィ、俺の目線の先には真っ白な牝馬の姿があった。
『俺に喧嘩売るなんざ良い度胸だな』
『やだぁ、図星突かれたからってそんな怒らないでよー』
『ちょっと人にチヤホヤされそうな毛色だからって調子乗るなよメスガキィ!!!』
グワンッと体を持ち上げ二本足で立ち上がる俺に手綱を持った兄ちゃんが引っ張られよろける、急にすまん!けどあのガキは許せねぇ!
煽りにうっかり乗ってしまった俺に周囲がざわつく、特に馬には効果抜群で若駒たちのパドックはとたんに落ち着きがなくなってしまう。
俺が明らかに興奮し、敵意を持っている対象がわかる状況に兄ちゃんはもちろん直に騎乗する予定だったのだろうロメロが一定の距離を取りながらも声を掛けて来る。
「ハナサン落ち着いて!」
「ハナサン、ショウブはターフで語るです」
いくら若駒と言っても俺は同年代では大きい方、成長途中でも4XXkgと人間からしたらはるかに大きな存在、荒れているところに近付くなど死にに行くようなものなので間違っても当たらない距離感にいてくれてありがとう、俺としたことが取り乱しちまったぜ。
兄ちゃんとロメロに宥められ怒りをグッと飲み込む努力、真っ白な牝馬をもう一度睨み付けてから元の進行方向に向き直る。レースに集中だ、集中。
そんなわけでいつもより気が立った状態でゲートに入った俺、ポンポンと首を撫でるロメロにはきっとその状態が伝わっているのだろう。
幾度となく練習したように、新馬戦の時のように、ゲートが開いた瞬間に駆け出す、そこで気付いた。
あれ、体重くね……?
追い切りとかはそうでもなかったんだけどな……。
脚がいつものように回ってる感覚がない。
これ、ヤバくね!?
調教時に本気で走ると言ってもそれはあくまで練習としての本気であって本番とは違う、馬場が、環境が、俺たちの走りを変える。
だからこそ気付かなかった、俺ってば肥え過ぎ!?自分の姿は見えないし?長期放牧されたわけでもなし程度は知れてると思っていた、もしかしてプールに連れていかれたのって俺の関節への負担軽減のためだったりした?
盛大な焦りを感じながらも地を蹴る。
走る、走る、走る、ただひたすらにゴールを、勝利を目指して走る。
あと少し、そう思ったところで眩く忌々しい純白が視界に躍り出た。
ふっざけるな!俺は勝つのが好きなんだ!!!
純白と並んでゴールに突っ込む。
どっちが勝った!?
最後は余裕がなく、そもそも俺は真横から見ることができるわけでもないから大きな差じゃないと判断がつかないんだ。
「可愛い私の蕾、今日の負けを糧にするよ」
負け……そうか、俺は負けたのか、マルには散々負けた、これでもかってくらいに負けた、けれど同世代の牝馬相手に負けたのは牧場のころを合わせても初めてだ。
負け…………。
『ワタシの勝ちぃ!ザァコザァコ』
立ち止まり頭を垂れる俺の周りをわざわざタッタカ歩きながら煽って来るメスガキ、悔しい!でも負けちゃったから何も言えない!ビクンビクン、とか言ってられない怒りが俺を襲う。
『テメェこのメスガキもう1回勝負しろやああああああ!!!!!』
『今日はもう終わりでぇす、残念でしたぁ!』
ウガアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!




