第21話 俺、絞る秋
「おかえりハナサン」
俺!帰厩!担当の兄ちゃんに連れられて足取り軽くやって来た俺をひょろさんが笑顔で迎えてくれる。
「トレセンに来るだけで機嫌損ねる馬もいるけどハナサンはご機嫌だね」
『まあなー、今の環境なら牧場よりこっちのが好きだぜひょろさん!』
「しかしこれは……」
「かなり太い、ですよね……」
『……へへ!』
いくら育ち盛りといえど言い訳できない程度に肥えて帰って来た俺にひょろさんと兄ちゃんが渋い顔をしている。
ジイサンはしっかりしていたが相変わらず姉ちゃんはちょろ……素直で愛らしく指定外のオヤツをくれたり、牧場で与えられるご飯もひょろさんブレンドと同じだったのでもりもり食べ、放牧中は寂しさのあまりついつい新鮮な草をもぐもぐ……ごめんて。
「ただ成長分もありそうだ、次のレースに向けて仕上げて行こう」
「そうですね!」
『俺も頑張る!つーか次レースどこ?』
厩舎に戻るということは次の目標レースが決まったということは確かだが俺はその情報がなかった、そして疑問に答えて貰えることもなかった、当然だよな俺馬だし。
「いくぞハナサン」
『はいはーい、今日も元気に走っちゃうぞー』
「ハナサン調教好きだよな、調教を楽しめるってすごい才能だよ」
『俺もそう思う、ってあれ?兄ちゃんいつもと違う場所?』
傍から見たら一方的に俺に話しかけながら歩く兄ちゃん、俺はちゃんと返事してるからフヒフヒ言ってるんだけどな、そんな中いつもの道から逸れて行くことに疑問を持ちながらもジイサンに何度か経験させられている俺は素直についていく。
ジイサンと違ってボケの心配ないし!
「よし、今日はここだ」
兄ちゃんが向かった先には建物があった、外じゃないのか、なんだ?
見慣れない場所に元から広い視野を持っているのにさらに頭をふりふり周辺確認をしながら入っていく俺。
プール!プールだ!!!
そこには馬用プールがあった、学校にあるようなプールじゃなく流れるようなプールの形の方がイメージに近いだろう、うねうねした水路がぐるっとしている。
人間だったころ映像で見たことはあったがこんな感じなんだな。
「ハナサンは水どうかな」
緩やかな傾斜を歩いて行くと徐々に水に浸かっていく、なるほどここで水というものになれるのか、野生ならまだしも普通に生きていたら俺たち競走馬は水たまりくらいしか出会うことがないから必要だろう。
まあ俺は元人間だし?こんなことしなくてもサクッと水に入れちゃうけど、そんなことは知る由もない兄ちゃんは俺の様子をじっと見つめている、だから変わらずご機嫌な様子を見せておく。
「大丈夫そうだな、なら行こう」
『いざ!』
兄ちゃんが引き綱を持って俺を誘導する、脚の付け根まで浸かり、コースに出たころには深く脚がつかないほどになる。
あばばばばばばば!
忘れてた!俺前世で泳げなかったんだよ!
ブッフブッフブヒュ
お……?体、浮くな!?人間だったころと違って浮く!俺!泳げる!!!
犬かきならぬ馬かきで水中をかきかき進んで行く俺、横で綱を持って歩く兄ちゃんが笑っている。
「上手だぞハナサン」
『兄ちゃん俺水泳の才能まである!』
ブヒュヒュン
人間だったころを含めても初めて浮き輪などといった補助具なしで泳げていることに感動しながら進んでいく、なんだろう人間の体より浮力が高いのか?それとも運動神経の問題か。
断じて運動神経が悪かったわけじゃないからな!水と相性が悪かっただけで!
『なあ明日もプール行く?行っちゃう?俺もっと頑張れる気がしちゃうなー』
初の水泳を存分に楽しんだ俺はプールから上がり兄ちゃんに手入れされながらフヒヒンプフフンと訴える。
「楽しそうで何よりだけど食べ過ぎはほどほどにしないとな?」
……通じなかったけど俺、反省。
でもご飯おいしいんだよなぁ。




