第19話 俺、守らねば
俺は何も見なかった、いいね?
それで全てを忘れることが出来たらどれだけよかっただろう、俺の記憶にははっきりバッチリ明確にティトゥスのご立派なジュニアの記憶がある、あれからは中々大変なことになった。
どうなったってまず俺があまりの出来事に見事な跳ねを披露しロメロが落ちた、ロメロの類まれなる運動能力と今までの経験による慣れのおかげで惨事とはならず見事な着地を見せてくれたがそうでなかったらと考えるとゾッとする、いくら理解できない事象を前にしても出来るだけ人を乗せたまま二本足で立たないようにしようと心に誓った。
そして俺にナニを見られたと気付いたティトゥスのヤツが鞍上を振り落とし猛然と走っていった、放馬である、他の新馬たちが大人しく騎手を鞍上に乗せて帰っていく中でまさかの1着2着の馬が大暴れである、正直すまんかった。
『ひょろさん……俺傷心中なんだよ、お家帰ろう』
「ハナサンよくがんばったね、いい走りだったよ」
『がんばった、がんばったから帰ろう?』
なんとか場が収まり騎手たちの後検量を待つ間ひょろさんが寄って来て褒めてくれるので俺はしょぼくれてますオーラ全開でここにいることが不本意だと主張する。
仕切りを挟んだ向こう側にいるティトゥスはずっと明後日の方向を向いていて俺と決して目線を合わせないという強い意志を感じる、まあモロに見られたら気まずいよな。
「……うん、おめでとうハナサン、初勝利だ」
『確定した?したなら帰ろ?腹も空いたし、な、ひょろさん』
「今日は丸井さんも来てくれてるからいっぱい褒めてくれるぞ」
え、オッチャン来てるの!?と思ったけどそうだよな、オッチャン俺のこと大好きだもんな、俺って強いし勝つところ見に来て当然か!ひょろさんからオッチャンが来てることを伝えられて若干テンションが上がった俺。
それでも上がり切らずいつもより若干のローテーションで担当の兄ちゃんの肩をグイグイと頭で押して撫でてもらう、俺は言葉でも行動でもたっぷり褒められて甘やかされて育つタイプだからな。
「よし、ウイナーズサークルに行くよ、口取り式だ」
『ウイナーズサークル?』
口取り式はG1しか知らないがこう優勝レイを首に掛けて関係者と一緒に写真を撮るヤツだろ、けどウイナーズサークルってのは言葉的には勝ったら行く場所っぽいけどどんなところなんだろうか。
『へー、これがウイナーズサークル』
パッパカ兄ちゃんに誘導されて辿り着いたのは本馬場の近くにはあるが区切られた場所だった、ここがウイナーズサークルか、俺が知ってるのは本馬場での口取り式だったが全部が全部そういうわけではないらしい。
まあそれもそうか、日にレースは何度もあるしその度にどれだけ掛かるかわからない馬相手の撮影なんて挟んでられないよな。
「平ちゃんありがとうね」
「いえタカネノハナが頑張ってくれたので……」
ピクピクと耳が動く、オッチャンの声だ、それなりに静かならオッチャンの足音なんかでも来たなってわかるんだがここは騒がしいから気付かなかった、オッチャンの声がした方をしっかり見ようと顔を向ける。
そこで俺は運命と出会った。
ふっくらとした頬。
くりっとした目。
にこにこと笑いながら振ってくれる手。
守りたい、その笑顔!!!!!!!!!!!!!!!!
「タカネノハナいい走りだったまた今度林檎届けるからな」
俺とその子が見つめ合ってる間にひょろさんとの話が終わったのかこちらに来てすばらしいご主人らしく褒めた上ご褒美の予告までしてくれるオッチャン、だがオッチャン俺は今それより気になることがあってだな……いや林檎はもらいます絶対もらうけどそれはそれとして、あの、その子の紹介とか。
「うん?ああ、今日は息子夫婦が来てるんだよ」
俺がプヒンプヒンと鳴きながらオッチャンとその子を交互に見ていたら気付いたらしいオッチャンがそう言った、なるほど!オッチャンの息子夫婦!結婚して子供いたんだなオッチャンいつも1人で来てたからてっきり独身貴族かと思ってたぜ。
「じーじ、おうま?」
「そうだよじいじのお馬さん、タカネノハナちゃんだ、今日勝ったすごーいお馬さんなんだよ」
常にやわからな表情をしている方のオッチャンだがその子に対してはでろんでろんに緩み切った表情で対応している、じーじ、つまり孫!ハイパーミラクルプリティーぷくぷくまるまるキッズはオッチャンの孫か!
俺に興味を持ったらしい孫ちゃんに説明してくれるオッチャン、いいぞ!もっと褒めてくれ!俺はこの子になんかすごいって思われたい!!!
「はなちゃ!」
今日から俺ははなちゃです!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!




