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第17話 俺、初めてのパドック


 そんなわけで今日俺はデビューの日を迎えた、え?飛び過ぎ?そんなこと言っても調教を繰り返す毎日だし俺のような人の知能を持った馬からしたらゲート試験とかお茶の子さいさいだし?また馬権を訴えたい輸送を体験したりどうせ北海道に来るなら牧場行きたいなとか思ったりはしたけど基本的に代わり映えのない日常は適度な感じでいいと思う。

 ひとつこの期間で問題があったとしたら牧場で食べていた飼料から変わりひょろさん厩舎ブレンドご飯になったんだが、べらぼうにおいしかった、ビックリするほどおいしかった、なのに量が少なかったことはとても大きな問題として認識している。


 「ハナサン口開いてるぞ、お澄まししような」


 めちゃうまご飯のことを考えていたら無意識のうちに口が開いていたようだ、担当厩務員の兄ちゃんが指摘してくれたので俺はクッと口を閉じてお澄ましさんする。

 俺が今どこにいるかって?パドックだ、そうパドック、一般の人の前でグルグル歩くアレ。だからこそちょっとアホっぽい面を見せてあの馬切りだな……とか思われるのは誠に遺憾の意なので俺はきっちりキメるぜ!とひょろさんにデビュー日が決まったと聞いてすぐ決心していた。

 もちろん表情だけじゃなくて歩き方にだって気をつける、ダラダラ歩くのはかっこうよくないからな、ここもばっちりキメるぜ!


 そんな新馬戦のパドック、他の馬たちと言えば……。


 『いやだああああかえるうううううう!』


 『うんこ!うんこ漏れる!あ!漏れた!!!!』


 『ヤダ!サイテー!』


 『ぎゃ!うんこ踏んだ!じいちゃんうんこー!』


 『お腹減ったーねむーい』


 『やるぜやるぜ!俺はやるぜ!』


 はっきり言おう、カオスだ。

 けれどそれも仕方ない、ここにいるのは当然俺と同い年の若駒体はもちろん精神的にもまだまだ未熟な馬たちの集まりなのだ、特に今日の新馬戦は夏も始まったばかりつまり新馬戦が行われるようになってそう経っていないころの開催だから余計なのかもしれない。


 『オイそこの牝馬』


 『やれやれ困ったベイビーばっかだな』


 『オイって』


 『なあ兄ちゃんもそう思うだろ?』


 『聞こえてんだろそこの栗毛!』


 なんか後ろで言ってるやついるなーとは思ってたがどうやら俺をご指名だったらしい、今日のパドックで他に栗毛はいない、俺がオンリーワンビューティー栗毛だ。

 ちなみに俺たちって人と同じように色が見えてるわけじゃないんだよな、だから毛色で呼ぶことはあってもそれは人間がそう呼んでいるヤツをそうだと覚えて、それに近い色のヤツをそう呼んだりする、だから間違うこともあるが俺は間違いなく栗毛。


 『なんだよ、俺に用か?』


 『そうだ、他のは相手にならなさそうだけどお前違う感じがする』


 『ふーん、わかってんじゃん』


 俺に声を掛けてきたのはまだら模様の牡馬だった……あれだな、新馬戦でこんなに変わってるのは珍しい気もするけど多分葦毛ってヤツだ、俺より体高は低そうだがなかなかいい体格をしている、なにより纏うオーラが他の新馬たちとは異なった。

 これは最終直線のマルに似たオーラだ、つまりコイツはおそらく超一級品のナニかを持っている、それがなんなのかはレースまでわからない、それでも俺は今まで鍛えてきた体をひょろさんが最善だと考え決めてくれた方針を信じて走るのみだ。


 『俺はティトゥス、お前は?』


 『俺はタカネノハナ、ハナでいいぜ』


 『ハナか……』


 自己紹介を終えて前後で歩く俺たち、それにしてもティトゥスって歩き方独特だな、コイツがG1を勝ったりして人気馬になったらティトゥス歩きなんて呼ばれたりするのだろうか。

 そんなことを考えていたらパドックにロメロがやって来た、今日も無駄に顔がいい金髪碧眼男め!


 「ヨロシクですねハナサン」


 『早く乗ったらいいだろ!どうせ乗るんだからよ!ヘタクソな騎乗したら振り落としてやるからな!』


 「今日もハナサンはとてもビジンサン」


 『ふ、ふん!』


 兄ちゃんの手を借りて俺の背にロメロが乗り上げる。

 俺のところにロメロが来たようにティトゥスのもとにも勝負服を着た騎手が近づいた、その人物が主戦なのかは知らないが……いや人間の目がよほど狂ってなければきっと主戦だろう、主戦と思われる初老の男性はなんだか食えない感じだ、ティトゥスだけじゃなく騎手も要注意だな。


 この時の俺はアイツがあんなことになってるなんて知らなかったんだ…………。


 「ありゃりゃ、お前どうしちゃったの」


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