第15話 俺、乗られる
「よーし、じゃあ今日はよろしく頼むよハナサン」
『マジでひょろさん乗るんだ、こういうのは助手の人やらが乗るのかと思ってた』
どうもタカネノハナです、ひょろさんからはハナサンって呼ばれてる、そんな俺は今ひょろさんを背にコースへ出ている。
どうやら事前情報に加えて本人が乗って俺の特徴や適性を改めて考えていく方針らしい、だからひょろひょろしてるのか、まだ成長途中の俺たちみたいな若駒にあまりに重い人間なんて乗せたら不快感凄いし人を乗せるの嫌になるかもしれないからな、繊細なんだよ俺たちって。
「じゃあまずは軽く流そうか」
パッパカ歩いてまずは環境になれること、どんな景色でどんな風に周りの馬たちが動いて、馬は群れで生きる生物なわけ他がどうしてるかって結構大事なんだよな、もちろん中には馬嫌いのヤツもいれば俺みたいにどっちでもいいやみたいなのもいるけど。
なれてきたら速度を上げてパカラパカラ、やっぱり歩くより走る方がきもちいいよな、ひょろさん乗せてるしまだ本気では走らないけど軽く走るだけでも気分は違う。
「なるほど……これは、なかなか」
『なかなか?なかなかってなんだよひょろさん俺はスペシャルだろ!』
「そろそろ良いかな、ハナサン」
お、好きに走ってヨシの合図だ、もちろん人間が馬に言葉が通じてるなんて思ってないだろうから足な足、足の具合でサイン出されてるんだよ。
それにしても俺の初お披露目だ、よーしハナサン頑張っちゃうぞ!
俺は走るのが好きだ、先頭で走るのはもっと好きだ、負けるのは嫌いだし勝つのが大好き、これから先俺は死ぬ気で走って走って勝ちを積み上げる!ひょろさんそこのところよろしく頼むぜ。
駆ける脚が軽い、流れていく景色は牧場にいたところと違うが俺がやることは変わらない、他より優れたスタミナで最高速度を維持し続ける、そうすることで他を引き離して誰より気持ちよく走るんだ。
「ハハッ、凄いな」
背に乗るひょろさんが思わずと笑いを零すと俺は一層気分がよくなった、そうだろそうだろ俺って凄いんだよ、だからしっかりしてくれよ俺は自分で考えて訓練出来ちゃうスペシャルビューティーホースだけど馬の育成に関してはジイサン含め周りの人間の方が長く一家言あると思ってるんだ。
より効率よく、より適した成長方向を指示してくれなくちゃ困るぜ、と言っても言葉が通じない以上本当はこっちの方が好きだとかそういったことは人間側にわからないわけで人に任せたら完璧!なんて甘いことも思っていない。
「よーしよし、ありがとうハナサン」
しばらく走るとスピードを緩めるようにまた指示があった、カッポカッポ急に止まるのは危険だから速度を下げて徐々に歩いて、と、それにしてもひょろさん乗せてたけど走りやすかったな牧場でも人を乗せて走ってたけどそれよりなんというか言い方はよくないかもしれないが邪魔じゃなかった。
身長もそこまで大きくなく一見ひょろっとした体型、もしかしてひょろさんは元騎手なのかもしれない、騎手から調教師へってのはそれなりにあるみたいだし。
『ハナだあ』
『お、マル遅かったな寝坊か?』
「うわ、ちょ、すみません!」
俺がある程度色々熟したところで見知った顔、マルが声を掛けながらこっちへやって来る……お前の引き綱持った兄ちゃんが慌ててるけど大丈夫か?デカいしパワーもあるマルを止めきることも出来ずひょろさんにペコペコと謝る兄ちゃんに幸あれ。
そんな兄ちゃんを微塵も気に掛けた様子もなく俺をはむはむし始めるマル、やっぱりクソマイペース野郎だよな。
「ははは、もしかしてその子がハナマルゴーゴーかな?」
「はいすみません、クレノのご老人から伝えられてましたけどここまでとは……昨日からずっと不機嫌で起き出すのも嫌がってたのに今はこの通り」
「君も大変だね」
寝坊じゃなく駄々をこねていたらしい、起きないことで遺憾の意表明としてたんだろうな、でもそれわかってくれるの多分ジイサンくらいだぜ、他の人間からしたらたんなる困ったちゃんだ。
『マルあんま厩舎の人らに迷惑かけるなよ』
『えー』
『えー、じゃねぇのどうせジイサンから色々言われてるだろ?あんまりワガママしてると帰されちまうぞ』
『ハナは?』
『俺はデビューして華々しく勝ち鞍積み上げる予定だからな!牧場にはそう帰らないんじゃね』
『……仕方ないなあ』
俺をはむはむしていたマルがのっそりと動き頭を下げ引き綱を持つ兄ちゃんの手へと口元を近付ける。
「え、わ、なんだ、どうした?」
「ハナサンが注意してくれて反省してるのかもしれないよ」
「まさか、でもそうならありがたい話ですね」
急なマルの行動に戸惑いながらもあやすように撫でる兄ちゃんはさすが馬の扱いになれてるよな、それなりの腕を持っているのか現金なクソマイペース野郎はちょっとご機嫌になっている。
こんな感じだけど悪いヤツではないんだよ、見捨てず世話してやってくれよな兄ちゃん。