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第99話 俺、味覚の違い


 あの後のこと、非常に残念なお知らせがある……ヒナちゃんは、いなかった。

 まあフォワ賞ってG1じゃないし、ヴェルメイユ賞だったら来てくれていたかもしれない……そういえばなんで俺出たのフォワ賞なんだろうな、オッチャン俺が牝馬だってこと忘れた?


 ま、そんなわけないか。


 不可解な勝利をあげた俺だがそれ以降も変わらず過ごしていた。

 ある程度しのぎ合い勝利する!という想定だったがそれもなかったため消耗は単純にロンシャンの稍重馬場を逃げとして走り切ったくらいのもので本番までには問題なく回復、そして仕上げることができるだろう。


 なにせ俺の食欲は衰え知らず!


 『お前、フォワ賞で会った時にも思ったけどヤバくね?』


 そんな俺とは推定正反対に馬体が今まで見たことのないような状態になっているのはソテである。


 『ハハ、ハァ……飯と水が自分には合わなくて』


 『お前東だろ、俺が普段飲んでるのに比べたら五十歩百歩だろって思うけどそんな違うか?』


 『違います、というより自分だって普段から西の水飲みたいくらいに気に入ってはないんですよ!それにレースが近くなると自分は別の水を用意して貰えてたんで』


 『あー……フランスだとそれが難しかったのか』


 『多分、次は用意してくれるならまだなんとか……』


 『意外だな、お前ならなんでも食べます!うまいです!とかいうかと、意外と飼い食いよくないタイプ?』


 『特別悪くはないですけどハナさんみたいに暇があればその辺の芝だなんだを口にしようとは思わないタイプ』


 『お?なんだ?喧嘩か?喧嘩売ってきてんのか?買うぞ?』


 『ちょっと先に着いたからって調子乗るなよクソガァ!!!!!』


 顔を突き合わせる俺たちの空気を割るような嘶きが聞こえてくる、その主はフランスへと渡る飛行機の中でも一緒だった牡馬。


 『べつに調子になんか乗らないわよ、お互い本気で走ってるわけじゃないんだから落ち着きなさい坊や』


 『坊やじゃねぇ!!!!!!!!!!!!!!』


 『ごめんなさいね、ほらアナタのお兄さんから任されてるからつい……』


 そしてその牡馬の保護者役といった様子の騙馬(せんば)、そう一見牝のような様を見せるが去勢された牡馬である。

 初日から2頭の様子は変わらず、少々口がよろしくない若い牡馬とそれを宥めているのか煽っているのかいまいちわからない年かさの騙馬、見ていてちょっとおもしろい。


 『ようお前らも来てたのか』


 『ア?なんだテメェらか』


 『今日もおもしれー牡してるみたいだな』


 『ハァ?おもしれー?……年増には興味ねぇぞ俺は』


 『ア゛ァ?誰が年増だ!?言葉には気を付けろよガキィ!!!!!!!!!!!あとそういう意味じゃねぇよ!』


 『コラコラコラ、事実だとしても年増はさすがにダメよ』


 『そうですよ、ハナさんはいつでも美しい自分の運命の牝ですし、ここは抑えて』


 『なんだコイツオマエのオ……なんだその体、飯取られてんのか?』


 『そんなわけないじゃない、でも大丈夫?』


 口の悪いクソガキと煽って来てる玉無しにも即座に理解されるソテのガレ具合、やっぱり気になるよな。


 ……こいつらいつか纏めてわからせてやろう。


 『自分こっちの飯と水が合わないみたいで』


 『まぁおいしいとは言えないものねぇ』


 『それな』


 『ア?日本で飲み食いするよりうめーだろ』


 『え?』


 『あら』


 『は?』


 『なんだよ!』


 意見が一致している年上かつ自分より大きな3頭に注目されて居心地が悪そうにするクソガキ。


 『飯は同じもの食ってるわけじゃないから置いとくとして、水うまいか?』


 『少なくともあっちで飲むよりはうめーよ』


 はて?


 3頭で目配せをしていったいどういうことかと首を捻るがそこで玉無しが閃いたとばかりに耳をピルピル震わせる。


 『あ!そうそう、この子のお兄さんから聞いたんだけどこの子とお兄さんは元々日本にいなかったみたいよ、といってもその頃この子は母親のお腹の中だったらしいけど』


 『あー……な?母親の食べてるものを介して自分に馴染む味覚が出来上がった、とか?』


 『もしくは味覚が変わってるかですかね』


 『それもあるかもしれないわ、お兄さんも好き嫌い多いし』


 『変わってねぇよ!つーかなんでもかんでも兄貴を絡めるんじゃねぇよお節介野郎!』


 『あらやだ久しぶりに野郎扱いされちゃったわ』


 ヤイヤイと騒ぐ俺たち、傍らにいる調教助手やら厩務員やらの人間たちはそれを見守りそしてある程度のところで引き上げる意志を見せる。


 『しっかり食って体戻せよ、勝った時それ言い訳にするとかクソダセェからな』


 『そもそも自分がお子様に負けることはないが体は戻すよ』


 『お子様じゃねぇよ!!!!!!!!!』


 『ほらいくわよー』


 『オイ!待て!人間!!!!!!!!!!』


 不満たっぷりながら玉無しと人間に促されて帰って行くクソガキ。


 『まあフォワ賞でもそうだったけど今のお前に勝っても嬉しくないって意味なら同意だな』


 『ハナさん……しっかり食います』


 『そうしろ、じゃあな』


 『あ、ハナさんそういえば』


 何かを伝えようとしてくるソテだが俺はすっかり帰るつもりだったのでスルーした。


 ひどい?ひどくない、ひどくない。


 俺の中での優先順位がソテと話すことより空腹をどうにかしたいが圧倒的に勝っているだけだからしかたない。


 そういえばこの前もこんなことがあったような……?


 うーん、まあ気のせいか!


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― 新着の感想 ―
面倒見の良いお姉さんかと思いきやオネエさんだった……
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