第97話 俺、ローテと餌
「へぇ、アレが日本の」
「ティトゥスの彼女だろ?」
「キレイな栗毛だな、それで強い牝馬、羨ましい」
「ネットに上がってる新馬戦と去年の有馬記念見てみろよ、笑えるぜ」
「俺はフォレッタの馬体の方が好みだな」
「花は妖精の傍らにあって映えさせるものじゃないか?」
「すごい食べてる……」
「ドバイワールドカップ2着だろ?ぜひお相手に欲しいな」
「日本の凱旋門賞に対する執着はなんなんだ?」
「最強の牡馬の次は最強の牝馬だってよ、フォレッタ相手に無駄だろうに」
……。
俺タカネノハナ、ひとたび人目のあるところを歩けば様々な話が聞こえてきます。
そう、それが、ストレス!!!!!!!!!!!
いや、俺は注目されるの好きだし?賞賛の言葉なんていくらあってもいいと思うけど?こう珍獣扱いじゃねぇけど、珍しがってどこから聞いたかわからない噂話やら他の馬と比べて好きに言われるやら、そういうのに四六時中晒される経験はないし、経験したくなかった!
多少のなら今までだって経験ある、ただここはフランス、元から俺を知ってる人間なんて皆無だろうしその分話題に上がる頻度が高い、まあ俺の強さが一定の評価を得てるからこそだろうけどな。
学んだことのない言語でも理解できる生まれ変わったことで得た能力がいらねえええええと思ったのは初めてだ。
もっともこれがなくなるとロメロが何をいってるかわからなくなることがあるのはもちろん、海外戦で得られる情報に各段の差が出来るだろうからなくなれ!なんてことは微塵も思わない。
ただストレスはストレスなのである。
もしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃ
「ロメロさんからこっちの飯に不満があるみたいだって聞いてたけど大丈夫そうだなハナサン」
ストレスのあまり、そう、ストレスのあまり!飯をもしゃっていたら遅れてやって来た兄ちゃんが馬房を覗きながらそう呟く。
ドバイでは到着からすぐ一緒にいたが今回は滞在日程の問題か、日本でも当然管理する馬がいるのでその兼ね合いか兄ちゃんはようやくやって来た。
『兄ちゃん、飯は満足してない!水だって厩舎で飲む方がおいしい!』
ブヒューンブルルルル
「なんだオヤツか?」
『兄ちゃんはすぐそうやって俺をおねだりモンスターみたいに扱う!けどオヤツはくれ!』
「まあ残念ながらオヤツはないんだけど」
『ないのかよ!!!!!!!!!!』
フヒィィン
騙された!俺の純情もてあそばれた!どうりでオヤツって言い出したわりに何のにおいもしてないと思った!
俺が抗議の頭振りをすると笑いながら謝って来る兄ちゃん、誠意に欠けてる!遺憾の意!
「ドバイでもそうだったけどハナサンは食欲がなくなってガレる心配がないのはありがたいよな」
『まあ、飯は置いといても水は関東行った時だってうまくはないし』
東京競馬場と中山競馬場で出走する時は当然お世話になるのはそちらの土地で、正直おいしくないんだよな水、これでも昔よりはよくなったらしい、らしいと聞くだけで俺はその昔を知らないからなんともいえないけど初めて飲んだ時は『オッチャン!俺の所属する厩舎に西を選んでくれてありがとう!』なんて思ったものだ。
地元の水が一番!とかはないが人間だったころから硬水より軟水派だったんだよ俺。
「うん、体調もよさそうだしこれから絞ることを考えたらいい感じ」
「まずはフォワ賞、程々が大事だからなハナサン」
『え、次走るの凱旋門賞じゃないの!?』
ブフヒュン
速報、俺凱旋門賞走ると思ったらフォワ賞だった。
普通?妥当?
いやいやいや、だってほら俺って叩き入れないほうがいいってひょろさんに判断されたんだよ!だからてっきり今回も凱旋門賞かなー、って。
ドバイワールドカップだってぶっつけだったんだし凱旋門賞もそうかなー、って!!!!!!!
俺がそう思っても誰も咎められないと思う、べつに誰も咎めて来ないけど、兄ちゃんには言葉通じてないし。
「ロンシャンの芝をしっかり確かめて、取ろうな凱旋門賞」
『予想外だったけど任せろ兄ちゃん、フォワ賞はもちろん凱旋門賞だって勝ってやるぜ、ヒナちゃん来るらしいし!……フォワ賞にもヒナちゃん来るのか?』
オッチャンがG1かG2かとかで来る来ないを決めるとは思わないが、ヒナちゃんにだって生活があって年に何回も海外へ行くことをご両親は許してくれるのか……。
俺、心配です。
『兄ちゃん、なんか落ち込んで来たから甘いもの』
プフーン
「オヤツはないからな?」
通じた!?!???????
なんてことはなくたんに俺が食いしん坊だと思われてるだけでした。
オヤツください。