第94話 俺、次の気配
放牧地は広いなー、空がキレイだなー、なのになんで俺はぼっちなんだろうなー……。
ジイサンめ!!!!!!!!!!!!!!
主張虚しく俺のお隣さんはいまだにやって来ていない、北海道と言えど十分暑くなってきたのに、おかしい、絶対ジイサンが手を回している!俺はこんなにも他の馬に優しく!清く!美しいのに!!!!!!!
仕方がないので相変わらず通路を挟んで向こう側にいるアホ殿だけが競争相手だ……せめてモモこっちに配置変えしてくれねぇかな、モモなら問題ないだろ?いや他の馬だって問題ないけどな?ナメた態度取るなら教育くらいするかもしれないけど。
「ハナー帰るよー」
今日も今日とて暑くなる時間帯は当然のように回避するためのお迎えが来た、今日はジイサンではなく姉ちゃんか、……基本的に俺の世話全般はジイサンがしているしそうじゃない時はジイサンが「明日は休みだが何するか」とかぼやいているから把握してたりする、それでいくと今日は休みじゃない……はず。
ジイサンになにかあったのか?ジイサンは年だからこの暑さにやられた可能性もある。
『姉ちゃんジイサンはどうした?』
フヒューン
「なーにハナ、……その目、ダメ、ダメだからね!この前見つかって怒られたばっかりなの!」
『いやオヤツねだってるわけじゃねぇからな!?』
フヒィン
「昔からハナの見つめる目に弱い私が悪いの、だけど!だけど!かわいくて!」
『まあ俺はビューティーホースでもあり愛らしさも兼ね備えたスーパーホースだからな!』
「それに今日は私からじゃないけどオヤツもあるから」
『マジで!?』
プヒ
『……ってそうじゃなくてジイサンのことだって姉ちゃん!』
ブルルルル
相変わらず話は通じないしこのナナメ上というかだいたい食に持って行くところはにひょろさんのところの兄ちゃんに似てるよな。
俺そんなにいつもねだってるか?
……。
ねだってるかも。
パカパカ戻る馬房、いくら本州よりはマシといっても暑い夏を乗り切る対策が万全な環境で大切にされている俺たちは野生のやの字すらない、でもとても幸せです、甘いものがあればもっと幸せです。
『ねみー、昼寝でもするかなー』
ぐいーっと猫のポーズ的にストレッチする俺、馬房の中でするより外のほうが広くてやりやすいが致し方ない。
「ハナー、お客さんだぞー」
その最中に掛かった声はジイサンのものだった。
『ジイサン!なんだよいたのか……ならなんで俺の世話してないんだ?おかしくね?』
ストレッチを中断した俺は不満を訴える、が、お客さん?
ポクポク歩いて馬栓棒の上から顔を覗かせる俺の視界に入ったのは。
『オッチャン!!!!!!!!!』
プヒューン
「元気そうでなによりだ」
『オッチャンいつもとなんか服装違くね?靴違うから来たって気付けなかったぜ、そうだヒナちゃんは?ヒナちゃん』
ブフンブルルルル
「これは……ヒナを探してるのか?残念だけど今日は連れて来てないよタカネノハナ」
『え』
ヒン
「そんなあからさまにショック受けられると……オッサンだけでは不満か?」
『いやオッチャンも好きだぜ?好きだけどヒナちゃんは別格っていうか別種で癒し効果がすごいっていうか、夏の暑い日だからこそ清涼感のあるヒナちゃん最高みたいな感じで断じてオッチャン1人が嫌なわけじゃ……』
ブヒュンフヒーンブフゥ
「なんだすごく言い訳されてる気分だな」
「ハナはヒナちゃんが好きですからねぇ」
「タカネノハナのおかげでヒナが興味を持って、ヒナが興味を持ってくれるから息子夫婦も競馬場へ来るようになってありがたい話だ……けど、いやだからかな?ヒナはやることがあってね、会えるのは次のレースだよタカネノハナ」
『次のレースヒナちゃん来てくれること確定!?負けられねぇな!!!!!!!!!!!!』
ヒヒィーン
「これはまた威勢のいい声を」
「ハナあんまり騒ぐと周りも釣られちまうからほどほどになー」
……待てよ。
『オッチャン次のレースって!?決まってんのか?いや決まってるか!この時期だし!』
ブフフンフヒィン
「よしよし、今日はメロン持って来たからな」
『メロン!?』
どこからか芳醇な香りがすると思ったら!メロン!大好きです!!!!!!!!!!
メロンを俺の口元へと持って来てくれるオッチャン、いただきまーす。
モグモグモグ
んー!
『ジューシーでデリシャスな味わい!』
ヒヒィィィィィン
俺の嘶きでほのかにざわめきだす周りの馬たち。
「こーらハナダメだろ」
ジイサンから怒られる俺、だって、メロンが!おいしかったから!!!!!!!
「タカネノハナはいつも喜んでくれて差し入れしがいがある」
だろ!?
……待ってくれオッチャンメロンのおいしさで忘れるところだった!
俺の次のレースってどこ!?