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第92話 俺、秋に向けて


 それにしてもマルはオーストラリアか、今帰って来ていないこととジイサンの感じからしてこの夏は日本に帰って来ないんだと思う。


 馬の海外挑戦において高いハードルとなるのが第一に輸送、その次に来るのが水や草など口にするものが合うか、そしてそちらの芝もしくはダートへの適性だろう。


 それらをもっとも自然に、そして効果的に馴染ませる方法が馬を現地で長期に渡り滞在させ調教することだ。


 もちろん普通はしない、そしてできないなんせそれをするには現地の厩舎や調教師などの繋がりとなにより莫大な金がかかるからだ、選ばれし馬のみが許されること……だと俺は認識しているが実際は知らない、だって俺一般庶民だしオッチャンにとっては笑顔で送り出せる金額かもな。


 なんにせよそこまでする以上勝算があるのは当然、そしてマルの調教師のオッサンもおそらくすげー人なんだなって認識、提案したのが調教師側かオッチャン側かは俺にはわからないけど肝が凄ぇよ、オーストラリアに行かせず日本と香港だけでも十分な実績は詰めるし。


 ……オッチャンの好奇心だけで行かされてるってことない、よな?


 俺はなんだか自分の未来に一抹の不安を感じます、マルはがんばれ。


 まあそれを計画したところでどうしても環境が合わないことはあるしそれで帰って来ることもあるだろうがマルの場合問題なかったんだろう、高松宮記念のあとにオーストラリアへ渡ったと考えるともうレースに出ていてもおかしくないし、大目標は秋あたりにあるレースか。


 俺に会えなくてご機嫌ナナメ?


 ……。


 キコエナーイ。


 さすがの俺もオーストラリアは無理だって、そこまで面倒見きれない、オッチャンもそれはしない、はず。


 しかしオーストラリアか、俺の好きだった馬の1頭がオーストラリアのG1を勝っているから少々思い入れがある、マルにはぜひあちらでも勝ってほしいものだ、まああいつなら心配いらないだろうけど!


 そんな感じでマルの不在を知った俺、かわりというわけではないが見知った顔もやって来た。


 『姉ちゃん!明日から俺様と一緒に走ってくれ!!!!!!!!!』


 アホ殿である。


 『お前会って第一声それはどうかと思うぜ』


 『あ、え、ただいま?』


 『おかえり、いや、まあいいんだけどな、やる気に満ち溢れてるじゃねぇか』


 『姉ちゃんなら知ってるだろ!?アイツとの勝負……』


 『ああ、皐月賞もダービーも負けたらしいな』


 『そうだけど!そうじゃなくて!!!!!!!!俺様はちゃんとアイツに迫ってる!だからこの夏姉ちゃんと鍛えて俺様は世代の先頭に立つスーパーホースになる!』


 なんだかとても既視感がある、まあアホ殿がいうように結果は知っていた、なぜなら厩舎が大騒ぎだったしな。


 ホープフルステークス→皐月賞→日本ダービー、これは我が厩舎から今度は牡馬三冠が生まれるかもしれないと沸き立つのは自然なことで、その可能性へたどり着くだけでもどれほど稀なことか、だからまあ皆が話題にあげおり俺はレース内容まで把握している。


 そんなことになったらとんでもないことだ、世代は違えどひょろさん厩舎は牝馬三冠馬と牡馬三冠馬が所属することになるんだぜ?


 まあひょろさんは他に誰もいない時俺を撫でながら「菊花賞か……ハナサンと違って距離が微妙なんだよなぁ」とボヤいていたが。


 どうやらひょろさんの見立てによると菊花賞は走れないというほどではないがベストじゃないらしい、完全に適正外ならどうにか説得する道もあったかもしれない、ただ走れる以上は回避して秋天というのは難しい。


 なにせ馬主なら誰しも夢に見るであろう三冠馬への道筋だからな、ここで勝率が高いと思う秋天へ行きます!なんてのは世間も、そして馬主も許してくれないだろう。


 現状二冠馬が菊花賞ではなく秋天へ、それが仮に許されたとして、そして勝ったとしても競馬に絶対はない以上【あの時菊花賞へ行っていたら三冠馬の可能性もあった】という思考は生涯引きずるぜきっと。


 そんなことを考えながらアホ殿を観察する、俺より長い胴、筋肉の乗った均整の取れた馬体、あ、脚の長さは同じくらいだからな!!!!!!!


 つーか。


 『お前デカくなったよな?』


 『俺様はいつでもビックな牡だぜ!』


 『そういう意味じゃねぇよ!』


 劇的に変わったわけではないが多分デカくなってる、アホ殿は元々遅生まれだしようやく成長が追い付いて来たのかもしれない……これは秋にはなかなか。


 『よし、いいぜ、明日から特訓付き合ってやるよ』


 『本当か姉ちゃん!?』


 『もちろん暑さでバテない程度だけどな、周り心配させるのはなし』


 『当然だな!』


 どの口が。


 まあひょろさん含め厩舎一同やネガティブ野郎には悪いが俺はカワイイカワイイ弟と走るだけだから、他意はない。


 本当、本当。


 全然あのネガティブ野郎がこのまま三冠は許せねぇとか思ってないから。


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― 新着の感想 ―
ハナさん、種牡馬的な意味では皇帝を認めてないけど、同世代の三冠馬としては、ちゃんと認めてるんですね(にっこり) そしてネガティブが気に食わないから、弟君を鍛え上げる、と(笑)
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