第13話 俺、旅立ちの日
放牧地が変わってからも俺はよく駆けよく食べスクスクと、それはもうスクスクと育っていった、ジイサンからハナはどんな時も食欲が落ちないなそれは才能だぞと言われている、えっへん!肥えないように気を付けないとなあと追加で言っていたことは許していない。
新しく走るようになった牝馬の中にマルほどの馬はいなかった、やはりマルは超一級品の才能を持った馬なんだなと再認識しながらそれでも走るのは楽しいし将来のために日々考え工夫しながら走った俺は今日、旅立ちます!
唐突だって?俺だって唐突だなって思うよ、けどジイサンが昨日言ってたから俺は今日馬として生まれて初めて北海道の地を離れる間違いない、ちなみにマルも一緒だ、これもジイサンが言っていた。
それに唐突といっても今日に至るまで色々やって来たんだ、馬具をつけられるようになったり人の重さや乗られることに慣れたり人を乗せて軽く走ったり、あと俺が知ってるゲートよりはるかに入れる頭数は少ないがゲートもあった、初めて入れられた時は圧迫感がすごいなと感じたしこれは大人しくしていられない馬がいるのも当然じゃね?と思いもした。
ゲート内で暴れる、出遅れる、そういった馬たちには馬たちの思いと事情があるので俺たちにもっと優しい心を持って欲しい、金がかかってたら無理か。
あれやこれやと世話をされ準備が進む中そういえば俺は産まれてからずっとこの牧場だったななどと思い出していた、生産から育成までやるのって普通か?なんとなく生産だけする牧場が大半なイメージだった、もしかしたらこの牧場は規模が大きい方だったりするのだろうか。
基本的にジイサンがずっと世話をしてくれていたし、乗せたりするのは別としてジイサン以外が俺に近づいてくることもあまりなかったからてっきり人が少ないのかと思ってたがそうではなかったようだ、マルの世話もジイサンが基本的にしてたし……なんでだろう?
あとオッチャンがわりと頻繫に牧場への差し入れと一緒にやって来たのもなんとなく大規模ではないアットホーム感を感じていた要因かもしれない、まあ故郷がしっかりあるってのは大切だよな、世の中には競走馬として生きてる内に故郷の牧場がなくなってしまった馬もいたと聞いたことがあるし。
さあいよいよ馬運車に乗って出発だ。
そういえば俺たちって本州までどうやって移動するんだろう。
はじめはたんに車に乗せられてるなーという揺れだった、それは良かった、が、途中から。
なんだ、なんだ!?
ぎゃああああああああゆれるううううううううう!
もぐもぐもぐもぐ
これ海か!?海だな!?!!!!?!!!!!
こんな揺れるなら先に言っとけよジイサン!へるぷ!へるぷみー!
あ、止まった。
『やっと着いた……え?まだ?中継地点?嘘だろ』
いやああああああああああああああああああああああああ!
地面、地面を歩きたい!俺の地面どこ!ここ!?
むしゃむしゃむしゃむしゃ
改善を希望する!これは馬に対してあまりに酷である!思いやりが足りない!こんなの許されあばばばばばばば!
俺の三半規管ないなった。
そんな旅を終えもう馬運車でも地面の上を走るだけ十分じゃない?と思う、次は海じゃなくて空がいい、人間のころのイメージだけど空の方が揺れなさそうじゃん。
こうしてようやく到着した俺の新天地、今日からここで本格的な調教が行われて俺はデビューをする、はずだ!
見慣れない人たちによってパッパカ降ろされる俺たち、新しい寝床はいったいどんなところかなと輸送中の精神的バッドコンディションなど忘れてご機嫌に歩く俺。
その道中で先を歩いていたマルとは違う方向へと俺の引き綱を持っている兄ちゃんが歩いていく。
『あれー?』
俺とマルは違う厩舎に所属するらしい……大丈夫か?