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第85話 俺、本日晴天心地よし


 今日も今日とて調教に出る俺、見事な快晴で素晴らしい調教日和である、いや暑くなって来たら曇りの方がありがたいけどな、俺たち馬は寒さには強いけど暑さには弱いんだ。


 調教助手の兄ちゃんを背に乗せてまだレースは近くないのか軽めの負荷で終わる、朝から運動に付き合う人間も含めて健康的って感じだよな。

 引き上げるためにパッパカ歩いているところで俺は見知った影を見付けて立ち止まった。


 ただ見つめる俺、気付かないアホ、不思議そうに帰るよう促す兄ちゃん、厩務員の兄ちゃんほどの察し能力はないため俺が何を見ているかは気付いていないらしい。


 あ、こっち見た、明らかに挙動不審になったな。


 気付かれたならばよし、同じく調教を終え馬房へと帰るところだったらしいアホ殿の方へと向かう俺、兄ちゃんにはしばらく付き合って貰おう。


 『よう、こっちで会うのは初めてか?俺は東に行ってることも多いからな』


 『姉ちゃん……そうだな、それに牧場振りだ。俺様と会えて嬉しいだろ!』


 特に何かを咎めるような入りではないからか早々に調子に乗ったことを言い出すアホ殿、こういうところがアホなんだよな、世の中では愛されキャラといわれるかもしれないが残念ながら人間に俺たちの声は届かない。


 『おー、嬉しい嬉しい、帰って来てすぐお前に会いたいと思ってたからなぁ』


 『え、姉ちゃんが俺様とそんなに……?』


 普段淡泊といって差し支えない、あえていうなら教育期間中はたっぷりと可愛がったがそれ以降はアホ殿に付き合う形が多かった俺からの言葉に自分から言い出したくせに困惑してどことなく腰が引けた様子を見せる……なかなかいい勘してるぜ。


 『心当たり、あるよな?』


 『心当たり……』


 『ないのか?』


 『あ、アレは俺様にも悪いところはあったかもしれないけどアイツが!』

 

 『あったみたいでなによりだ、これでないとかいったら教育的指導する必要あったし』


 『ヒッ!』


 ヒュゥン


 ひと夏の思い出がしっかりくっきり残っているらしいアホ殿はじりじりと後退していく。


 『よし、とりあえず走るか』


 『え、でも俺様はもう帰るって『走るか!』……ハイ姉ちゃん』


 アホ殿を引き連れてコースへと戻る俺。


 「ハナサン!?今日はもう終わり……そもそも他厩舎の馬とそんな急、弟君か!いやでもダメだって!」


 「テム急にどうした、お前の好きなブラッシングが待ってるぞ?帰ろう?な?」


 そして大困惑の背中に乗る調教助手の2人、これはこれで迷惑をかけているわけだが時にはそれが必要なこともある!よそはよそうちはうち!俺は俺が思うように動くのみ!


 「ハナサンせめて抑えて!抑えて走るんだからな!?」


 「すみませーん!走りまーす!テムほどほどにだぞ!」


 いくら手綱や脚で促しても止まらない俺とアホ殿に鞍上ではどうしようもないと察したのか必死に言い聞かせたり周知させたりと頑張っている、まあ予想通りの展開、これで心置きなくなく走れるな。


 世界は俺を中心にまわっている!


 コースに戻り調教中の馬とずらされたタイミングで2頭走りだす俺とアホ殿、内容?結果?特別いうことはない、俺の勝ちー!!!!!!!!!である。

 まあ当然なんだよな、俺って現役最強候補だし、現役最強なのかは出会ったことがない馬もいるから知らない。


 けど……また速くなったなアホ殿、こいつは遅生まれということもあって3歳馬の中でも体が出来上がっていない部類に入る、つまり絶賛成長期でこのまま充実していくことを考えると……、俺もがんばって鍛えるか。


 姉よりすぐれた弟などいない!


 とりあえず今回もまたしっかりとわからせることが出来た俺とアホ殿の上下関係、何かを伝える時にまずわからせるそれが俺たちの間では重要なんだ、強いヤツに従うって本能に刷り込まれてるからな。


 『アイツから話しを聞いてるし俺でもそうしたと思ったり、まあ……なんだ、お前だけが悪いわけじゃない』


 『そうだよな!?俺様悪く『でも!』』


 『いつも大切に世話してくれてる厩務員を困らせるのはしちゃならないだろ、いや……時には俺だって今みたいに困らせることはある、けど最低限場所と場合を考えろって話なんだよ』


 『……あの時は他のやつらもたくさんいて、それにそこまで怒ることじゃなかった、俺様はムカついたけど!』


 『わかってるじゃねぇか、あとあのネガティブ野郎にムカつくのは仕方ない』


 『そうなんだよ!アイツ勝つくせにあんな!アイツがダメなら負けた俺様たちはなんだ!?』


 『心底同意してやる、けどいいたいことがあるならまず何するか、俺はお前に教えただろ』


 『……勝つ』


 『そうだ、ムカつくなら、いいたいことがあるなら、余計に勝ってみせろ』


 『姉ちゃん……俺様勝てると思うか?』


 『さあな、俺はレースでのアイツも、お前も知らないし』


 『そっか……』


 『けどな、お前は俺と散々走った、いくつも勝ちを上げた俺についてきた、何よりハイパービューティーホース俺!の弟なんだぜ』


 『姉ちゃん』


 『初めて会った時自分で歌ってただろ』


 『俺様最強ナンバーワン!』


 『ウケる、今それいっても説得力ないからな、まずは世代の頂点取ってこいよネフェルテム』


 『姉ちゃん俺様が今アイツに届くかはわからない……けど本番までがんばって、次は全力を出せるようにしっかり整える!』


 『その調子だ、じゃあそっちのボスによろしく』


 俺の弟が負けっ放しってのは俺としても気分がいいものじゃない、しっかり走ってもらわねぇとな!


 帰るぞ調教助手の兄ちゃん……、え、今日はオヤツ抜きを考える!?


 そんなあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!


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