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第12話 俺、プチ別れ


 オッチャンに初めて林檎とバナナをもらってから俺の食には彩りが加わった、気分的にね、いや馬になってから牧草もおいしいよ?おいしいけどやっぱりみずみずしさが違う、マルなんてみずみずしさを求めてなのか牧草を飲み水に突っ込んで食べるくらいだし、俺もやったけど嫌いではない嫌いではないが普段からそれで食べる気にはならなかった。


 『ジイサン今日は林檎?バナナ?それともまだ食べたことない果物?』


 「おー、よしよし放牧の時間でオヤツはないからなあ」


 『そんなー』


 ジイサンに撫でられることでしかたなく溜飲を下げる、まあ牧草もおいしいし?特に夏はいいんだよ早く夏に……いやでも暑いのはちょっと、馬になってから初めて迎えた夏は暑かった、いやそりゃ夏だし当然だよななんだろう体感?俺たちって物理的に走るのやめられない止まらないだし。

 まあそれでも人間だったころの記憶で比較したらずいぶんとマシな暑さだった、さすが北海道って感じたよあの時は、そういえば母ちゃんとお別れした時すでに暦的には夏だったらしい。


 『ん?ジイサンボケた?そっちじゃなくね?どうせボケるなら俺にいっぱい林檎くれよ』


 「ハッハッハこっちだぞお」


 『えー?本当?』


 なんだか覚えのあるやり取りをしながら放たれたのは知らない放牧地でした、ってほどではない、昨日まで放牧されていたところのお隣さんくらいだな、こっちの放牧地の方が囲いの柵が大きいなと思ってたんだ軽く走ってみると広さを実感する。

 広いということは走れる直線距離も長くなるということでこれは嬉しい変化だ、ルンルン気分で俺は他の仔馬が来るのを待った。


 『あっれー?』


 だが他の仔馬、マルとシロが来ることはなかった、モモは来たんだけどな。


 『なあモモ、シロとマルどうした?』


 『アタシが知るわけないでしょ』


 『まあそっか』


 そうだよな俺が知らないのに一般馬のモモが知るわけない、そしてこの放牧地にいるのは俺とモモだけということはなく見知った保母役をしている牝馬に加えて知らない牝馬が数頭、そこで俺はピンと来た、もしかして牝馬と牡馬をわける時期が来たのではないか?ってな。

 今まではベイビーとして牡馬牝馬一緒にいた俺たちだが馬房をわけられ次は放牧地ということかなと思ったのだ、馬が何歳から繁殖できるか知らないが万が一にも間違いが起こったら大変な事件となってしまう。


 目下最大のライバルであるマルとの競走ができなくなることは惜しいがこれはしかたないことなのである、それにまだ実力はわからないとしても他に牝馬はいる、もしかしたら新たなライバルもいるかもしれないし。

 早々に意識を切り替えた俺は初めてマルやモモ、シロと出会った時を思い出し最初が肝心キメるぜ!と見知らぬ牝馬たちへ挨拶に向かった。


 結果?ナメて貰っちゃ困るぜ、これでも馬として産まれて1年以上経ってるんだパーフェクトコミュニケーションに決まってるだろ?一緒に駆け回ったさ!

 そんなわけでハナちゃんはちょっと変わってる走るの大好きっこ認定された、モモのほうが変わってると思う。


 『ねえ、なんでハナ今日いなかったの?』


 俺が放牧地から帰った時にはすでに寝ていたマル、飯の時間となり俺がモッサモッサと食べていると起き出したのかそう問いかけてきた。


 『今日、っていうかこれからは別の場所だぜきっと』

 

 『……なんで?』


 『なんでって、お前雄で俺一応雌だし』


 『雄と雌でも俺とハナはなかよしだし関係ないよねえ?』


 『いやそうはいかんだろ』


 マルが耳を後ろに引き絞り前脚で掻き始める、とてつもないご機嫌ナナメっぷりだ、これは初めて馬房が離れジイサンに苦笑いされながらマルの向かいへと移された時見た姿と酷似している。


 『ヤダ!!!』


 マルの嘶き、ヤダって言っても俺にはどうしようもない、いくら元人間で馬として並外れた頭脳を持っている上にビューティーベイビー……もうベイビー卒業か?ビューティーホースの俺だろうとしょせんは人に飼育されている立場なのだ。


 『ヤダヤダヤダヤダ』


 「どうしたマル、ハナはマイペースだなあ」


 嘶きの違いを感じ取ったのかジイサンがすぐさまやって来た、俺と言えばやれることもないし引き続き用意された飼葉を食べていたのだがクソマイペース野郎を前にマイペース扱いは遺憾の意。


 『ジイサンからも言ってくれよ、放牧地わけるのしかたねぇじゃん?なのに駄々こねてんだぜマルのヤツ』


 『ハナは僕と一緒じゃなくてもいいんだ!』


 「はー、落ち着けマル、どーどー、そんなカッカッせずにほれこれな」


 林檎の気配を察知!ジイサン!今マルに林檎やっただろ!俺には!?なんで俺にはないんだよ、林檎もらうにはちょっと不機嫌アピールしたらいいって覚えちゃうぞいいのか!

 俺がフヒンフヒンと抗議する中でジイサンは何やらマルに顔を近付けて話している、耳良いのによく聞こえないぜ、どんだけ小さい声で喋ってるんだジイサン、あと自分の声がうるさいなでも抗議はやめられない。


 「わかったわかった、他のには内緒な」


 『へっへっへ、わかればいいんだよわかれば』


 マルとのお話が終わったジイサンは俺の方に来るとひとかけらの林檎を俺にくれた、マルのおかげで思わぬお零れだ、食後のデザートなんて馬界の貴族かな?


 『待っててねえハナ』


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