第82話 俺、事件の香り
『あー、気が抜けるぅ』
プヒューン
すっかりくつろぎモードに入っている俺が今どこにいるか、そうひょろさん厩舎の馬房である。
帰って来ました日本!!!!!!
それこそ帰るまで色々あった、本当に色々、検疫関係はもちろんもっとも俺を困らせたのは帰りの飛行機内でのロッカの絡みである。
やれ『なんでレースにいなかったんです!?』だ『ハナもしかして逃げてるぅ?』だ『俺ちゃん一等賞ー!』だ『本当ありえないんですけど!!!!!!!!!』だ、あ、エウテアモはおめでとう。
まああの窮屈な環境の中気が紛れたともいえるが、ただいくら言われても俺がレース選びしてるわけじゃないからどうしようもないんだよな、俺だってまさかダートを走ることになるなんて思ってもみなかったし、文句はすべてオッチャンにいってほしい。
『やっぱ日本で食う飯が1番だな!』
もしゃもしゃもしゃ
なんやかんやありつつも俺はこうしてひょろさん厩舎のめちゃうま飯を食べれているのでオールオーケー!というわけではないが、過ぎたことはヨシ!
『姐さん本当よく食いますね』
『ア?お前こんなうまい飯他じゃ食べられないからな!?ありがたみを感じながら食え!』
『いやー、これでもこの厩舎に移ってから随分食うようになったんですよ俺も』
去年の半ばあたりだったか?からやって来た牡馬が俺の食べっぷりに軽く引きながら話し掛けて来る、俺たち馬の所属厩舎ってのは基本的には変わらないが様々な要因から変わることもある、人間にしろ馬にしろ合わないなら他の選択肢を選ぶというのは悪くないことだよな。
『ハナさん、ちっとも顔を見せてくれないから俺はてっきり去年引退したのかと……』
『俺は生涯現役な!!!!!!そもそも俺がいた時にお前が帰って来てなかっただけで他のやつらとは顔合わせてたし』
『そうよ、だから言ったじゃないお姉様は一時的にどこかへ行ってるだけだって』
俺が初めて入厩した頃にはすでにいた牡馬と、1年後に入厩してきた牝馬も混ざって来る。
あ、そうだ、どうも平厩舎でボス馬やらせてもらってるタカネノハナです。
………………。
うん、いいたいことはわかるぜ?年上の馬だったり、牡馬だったりがいるのになんで俺がボスやってるかだよな。
それは俺がデカくて強いからである!!!!!!!!!!!!
いやー、なんともシンプル、でも馬にとってはすごい重要なことなんだよこれ。
俺ってそこら辺の牡馬じゃお話にならないハイパービューティーボディを持ってるし?それに加えて走っても同じ厩舎のやつらには負ける気がしない、……いや1頭怪しいのはいたんだぜ?けどそれが先代のボス、そして俺はそいつに指名されて、周りも納得の上ボスの座を引き継いだわけだ、そいつは去年で引退したからな。
一応俺よりデカい牡馬は何頭かいる、というよりこの厩舎多分だが全体的にデカいんだよな、けど気性が穏やかで争いや引っぱっていくような性質の馬がいないんだ。
それでもボスにされる馬ってのは世の中にいる、ただそれは大前提対抗となるような馬がいない場合で俺の場合はそいつらが自分よりハナの方がって感じでどうぞどうぞされ、先代ボスもおそらくそんな性格の周りを理解した上で俺に目を付けたんだろう。
次のボスにならないか?って話は一昨年、俺が3歳の頃からチラチラされてたんだよ実は。
といっても別にボスだからって俺がやることは多くない、なにか揉め事があれば仲介したり、それぞれの様子を気に掛けたりはするがそれは別にボスじゃなくてもそれなりにするしな、元人間のコミュニケーション能力を舐めて貰っちゃ困る。
『お前ら俺が居ないからって変な揉め事起こしてないだろうな』
『そ、そそそそ、そんなのないに決まってるじゃないですか姐さん!』
『そうよお姉様!私たちイイコだもの!』
『あからさまに怪しいが!?』
『お前たち素直に言いなさい……』
ブフゥ
『いや……でもアレは俺たちっていうか、なあ?』
『そうよね、私たちっていうよりは…………』
年上の牡馬にうながされた2頭が示し合わせたように見る方向は去年入厩してきた、つまり今年3歳になる牡馬のいる馬房の方だった。
『アイツが?問題起こすようなやつじゃないだろ、いや絡まれそうなタイプではあるか?』
『それですよ姐さん!なんかアイツが他所のヤツに絡まれて、それで俺らは、な!?』
『助けてあげたのよお姉様!イイコなの!』
『よくわからねぇし直接聞いてみるか……』
『すまないねハナさん、俺はどうにもそういったものが苦手で』
『まあこれも俺のシゴトだしな、任せとけ』
さて、いったいアイツになにがあったのか、ちょっくら聞きますか。