第79話 俺、次への気持ち
いや頑張ってたのは知ってるぜ、一緒に走ってたし、なんなら隣の馬房だから『なかなか勝てなくておじさんが落ち込んでるの嫌なのねー』とか『ご飯食べるの得意じゃないけど水に浸けるとイケるよハナちゃん』とか聞いてたし?おめでとうって気持ちももちろんあるけど、なんか、なんか!!!!!!
いったい何故なのか、緩さか?この緩さで俺に勝つの!?的なアレか?
いやでも冷静になろうぜ、そもそもおそらくの話俺には斤量減がある、牝馬である俺と違い牡馬である他馬は少なくとも2kg重い斤量を背負っているわけで実質俺は2着だけどそれがなかったら、いやそれ言い出したら他のレースもだが!?
斤量減が単純な能力差を狂わせるとまでは行かないが有利なのは間違いない、そもそも牝馬と牡馬という根本的な体の作りの違いを元にして生まれたのだから仕方ない部分はあるしそれがなくとも問題ないという力を見せれば問題ないわけで……最近の俺ってそこら辺微妙じゃないか?
……なんか嫌なことに気付いちまったな。
「私の麗しの華君はよく走ったよ、初挑戦と思えないいい走りだった……とても誇らしい」
しょぼくれながら戻る俺の雰囲気を察したのか背に乗ったロメロがそう声を掛けてくれる。
『でもよロメロ、前々から気になってたけど今回も勝てなかったし有馬はティトゥスがアホだったし秋天はソテと同着だし安田記念こけて、高松宮記念は2着……俺ってもう1年以上いいところなしなんだよ』
プヒーンプフフンプフゥ
俺は今とても贅沢なことをいっている、自覚はある!ただ俺の勝ちぃいい!!!!!!!みたいなテンションになれる勝ちを掴めていないのは確かなんだ。
他の馬に聞かれたら総スカンされても仕方ないレベルでも俺の中では確かに落ち込む要因となることだってある、本当に言えないけどな?モモあたりにいったら多分『はっ倒すわよ』っていわれるだろうし。
「ハナサン!おかえり!すごかった!」
「ハナサンいい走りだったよ、やれるとは思っていたけどあそこまで頑張ってくれるなんてさすがだね、ロメロ騎手もありがとう」
兄ちゃんとひょろさんの出迎える姿は晴れ晴れとしたもので、1着じゃない悔しさはあるのかもしれないが表面上はとてもそうとは感じさせないものだった。
『そ、そうか……?』
プヒィ
少しばかり気分が浮上した俺は兄ちゃんに連れてかれ後検量やらなんやらを褒められながら終えた、さすが兄ちゃんよく俺のツボを心得ている。
そしてあとは馬房へ引き上げるばかりとなった俺に会うため来てくれた2人。
「おかえり、いいもの見せて貰った!」
「ハナちゃすごかったのよー、いいこいいこ」
そうオッチャンとヒナちゃんだ!
『オッチャン!ヒナちゃん!』
喜びブフブフいう俺の鼻面にヒナちゃんがお得意のぺちよしをしてくれる。
それだけでも気分上々となる俺だがさらに大満足といったオッチャンとすごいといってくれるヒナちゃん、もうこんなの、アレだ。
メンタルリフレッシュ!!!!!!!!!!!!
『オッチャン俺大好きだもんなー!いい走りだけでもそんな感じ?ヒナちゃん次は勝つからもっと褒めてくれよ』
沈んだ心はその場で解決、すっかりご機嫌になった俺はしばらくオッチャンやヒナちゃんに褒められ撫でられ、ついでになんだかやって来た石油の香りがしそうな人々にも愛でられ、最終的に大満足な1日となったのだった。
あとなんかめっちゃ写真撮られた。
俺としては心残りがないといえば嘘になるが当日までダートを走ると知らずなんだ?パワー求めてる?俺が気付いてないだけで足元に不安出て来た?などと思いながら調教された馬にしてはがんばって走った、そう思うくらいは許されるのかもしれない。
勝ちは大切だ、でも1着だけが絶対ではない、2着だって賞金はでるし……そういえばドバイワールドカップの2着って賞金いくらだ?知らないけど結構すごいんじゃないか?なんていったってドバイだし。
話がそれた、えーっと、そうだ勝ちがいいのはもちろんだが俺が怪我なくしっかりといい走りをするだけで喜んでくれる人がいる、こんな幸福なことはないだろう。
どうしても競走となる以上俺は順位を気にするし1着になれないと悔しくてたまらない、ただオッチャンとヒナちゃんに褒められるならそれはそれでいいんじゃないか?
……でもやっぱりそうだな、次こそは俺の強さ見せてやる!!!!!!!!!!
俺は負けず嫌いなビューティーホースなのである。