第75話 俺、まさかの始まり
思いもしなかったまだ見ぬ強敵との出会い、まではいかないが遠目でわかるレベルの他との格の違い、あそこまでのはティトゥス以来、俺は気を引き締めて今日という本番を迎えた。
世界は広く様々な競馬場が存在するがパドックというものはそれほど変わらないらしい、やることが決まっているからか?ロンシャンなんかは木がドーン!で見るとおお、海外!みたいな気分になるが。
俺はいつも通り兄ちゃんに引き綱を持たれてパッパカパドックを回る、俺にとってパドックと言えばもはやなにかしらのハプニング発生場所とかしているが今日は今のところ問題なし。
暇なので周りの馬の観察でもするか、さすがドバイへと招待された各国の馬どの馬もすばらしい馬体……なんか全体的にゴツくね?いや俺だって負けてないけどな、ハイパービューティーホース俺は肉体美に自信あり。
他の馬に見劣りしないように気持ちキレよく歩く俺、歩様って大事らしいぜ?俺にはそれで何が変わるのかさっぱりわからないが、歩き方なんてその時の気分次第だしな、まあもっと玉石混交みたいなレースになるとあからさまな歩き方とかあるのかもしれない、知らんけど。
『あれー?ロッカとエウテアモいなくねぇか兄ちゃん』
プフーン
「ハナサンはどこでも変わらないなぁ……」
問いかけながら兄ちゃんの方に頭をグイグイと押し付けるともちろんその意味は通じないが撫でてくれる、撫でてくれるから答えが出ないけどヨシ!
いや、なんとなくいない理由はわかるしな、ロッカとエウテアモが得意とするのはマイル、今回のドバイで言えばドバイターフを目的として来ているのだろう、俺もてっきりそうだと思ってたんだが……どうやら違うようだ。
なかなか一緒の調教にならなかったり馴染みのない馬と走っていたのはそういうことか、なんだオッチャン俺ならドバイターフが王道だろうに……ついに欲が出たか?
ドバイターフとドバイシーマクラシックじゃ1着賞金にざっくり50万ドルの差があるからな!
……うーん、オッチャンが気にするほどの金額か?というとわからない、金持ちは金持ちの基準があるし俺は金持ちになったことはない、俺だったら泣いて喜ぶ金額差だが。
有馬記念を勝ったことでそちらの方の欲が出た、という方が納得はしやすい気もする、記録上日本馬最強のティトゥスをくだした以上世界へ!みたいな?
『けどアイツもいねぇな、てっきりこれくらいの距離だと思ってたんだが』
ブフ
「よーしよし、どうした?何か気になるのか?」
なんとなく会話が成立しているように見える気がする俺と兄ちゃん、まあどんな人間の言葉でもわかる馬なんて俺くらいのものだろうから意味はないが。
俺がいうアイツというのはもちろん先日見たあの黒い馬である、黒と言えばマルのやつも黒だな、同じくらい黒かった、日に当たるとツヤツヤして見える。
『兄ちゃん今回ドバイに来てる馬でヤベェのいるの知ってる?知ってるよな、アイツのこと俺知りたいなー』
ブルルルルプヒプヒ
「うーん……」
うん!伝わらねぇな!!!!!!!
諦めてパドックを回ることに戻る、周りは関係者がぞろぞろとくに目を引くのはやはりいかにも石油王です感が溢れる集団、あれが実質のスポンサーになるのか?ドバイの賞金の仕組みなどはさっぱりしらない。
いいよなー、俺も来世があるなら石油王の息子に産まれたい、産まれた瞬間から勝ち確の人生ってどんなのなんだろうな。
まあ俺は今なかなかいい馬生を歩んでるわけだが稼いでも好きに使えないっていうのは人間だったころの記憶がある分ストレスだったりする、もっとうまいもの食べたいフルーツとかクッキーとか……ロメロもっと高頻度でクッキー作って来てくれねぇかな、いや、たまにの贅沢感があるからより一層おいしく感じてるのか?
ちょうどロメロのことを考えてきたら俺へ騎乗するためにロメロがやって来た、いつ見ても女がキャーキャーいいそうな顔である、きっとUMAJOの写真もキメキメでアクセス数も多かったりするんだ。
「ハナサンどうしたです?」
「いやー、なにか気になることがあるみたいで?」
「バレましたか?」
「どうでしょう」
俺の内なるイケメン許せないマンが溢れ出ていたのか様子が違うと感じたらしいロメロ、そして先ほどのことを持って来て答える兄ちゃん、ところでバレるってなんだ?
『なにか俺に隠し事してんのか?拗ねるぞ?また盛大に拗ねるぞ????????』
プヒィーンブフフ
「ハナサン大丈夫です、ハナサンはどこでも咲けるハナ」
「そうだぞハナサンなら今回だってきっと大丈夫だからな」
『お、おう……?』
なんだなんだ、鞍上はロメロが来たから間違いなくロメロだよな?ここに来て急に他所の馬に乗り始めたらさすがに出走拒否するぞ?
そう思う俺だがそんな事態にはならず背へとロメロが兄ちゃんの手を借りて乗り上げる、しばし歩いたらいよいよ本馬場入場だ!
本馬場へ向かうための道をポクポク歩く俺、あ、ひょろさんだ、なぜか胃の辺りを抑えている。
「ハナサン、ロメロ、あとは頼んだよ……成果を期待してる、だが一番は無理なく帰って来ることだから」
「わかってるです、ハナサンのアンゼンダイイチ」
そして兄ちゃんが引き綱を外しいよいよターフへと足を踏み入れる、走った感触としてドバイの芝は嫌いじゃない、今日もやってやるぜ!
なんて早速クルクル回って走り出そうとする俺をロメロが制止しあちらへ行けと指示を出す。
他の馬も向かってる先……うん?
『なあロメロ俺の見間違いじゃなかったらあれ、ダートじゃね?』
ブフゥ
「行くよ私の華、どこでだって私たちなら勝ちを掴める、そうだろう?」
どうやら見間違いじゃないらしい、他の馬と同じくダートコースへと進む俺。
……………………。
オッチャン!????!!?!?!?!!!!!???????