第73話 俺、違いを知る
勝つぜ!なんて意気込んだものの本番はまだ先なわけで俺はあれから馬房へと移され、そこで兄ちゃんと感動的な再会があったりなかったりしながら過ごした。
諸々のチェックが終わり空輸で凝り固まった体もすっかりリフレッシュ「やっぱり肥えたか……」なんてひょろさんや兄ちゃんが話し合っていた?
……ま、そういうこともあるよな!
いや仕方ないだろ、空の上でやれることは限られていたからたっぷりと用意された飯は完食するしかなかったし、他の馬は残してた?まあまあまあ。
こちらに着いたら着いたで用意された飯が、な?いや俺はてっきり日本と同じものが出て来ると思ってたんだよ、思ってた、そう味が違ったんだ……そうなるとどうなるかって、その悲しさを埋めるために量を食べるわけだ、いつも量を食べてる?まあまあまあまあ。
本番までに絞ればね!問題ないから!頑張ろうなひょろさん!!!!!!!!!
調教助手の兄ちゃんを背に乗せパッカパッカと走るいつも通りといってもいい運動、いや言いたいことはあるんだよ、けど海外ならではの違いって俺にはわからないし?的外れなこといってもな、みたいなことを思い素直に従っている。
いつでも俺は素直に調教されてるけど。
その行き帰りの道は舗装されているが俺たちのために準備された芝スペースもあったりする、しっかりご飯を用意されてもやっぱり新鮮な生えた草を食べるっていうのは馬にとっていいものなんだよ、ストレス軽減効果?地面から食べる草は気持ちおいしく、おいしく……。
もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ
「ハナさんどうしたそんな難しい顔して」
「それ難しい顔なんですか?」
「はいまあ、なにか納得いってないのかな?」
「タカネノハナは賢い子みたいだし、気になることがあるとか?」
「……いや、これは」
『兄ちゃん!日本の草のがうまい!!!!!!!!!』
プフヒィーン
「あ、これは多分気にしなくても大丈夫なヤツです」
「今のでなにか意思疎通が……?」
「いえ、ただオヤツをねだる前の感じと似てるので多分飯関係だろうなと」
『全然大丈夫じゃねぇよ!飯が!飯がちょっとおいしくないんだって!それに加えて草もなんか!なんか違う!飯のことは超重要だろ!?俺の飼い食いが悪くなったらどうするんだ!?』
ブルルルルプフプフ
「草を食べながらオヤツ……タカネノハナは食欲の心配がなくていいですね、うちのなんかは空輸からガレてしまって」
「そこは、はい、ただ逆にうちは食べ過ぎで……」
「お互い苦労しますね」
「本番には間に合わせましょう」
俺の訴えを無視して一緒に歩いていた厩務員と話す兄ちゃん、どうしてだ!兄ちゃんの愛するビューティーホース俺がこんな訴えてるのに!!!!!!!
『あんまりおいしくないのねー』
『やっぱりお前もそう思うか!?なのに人間はちっともわかっちゃくれない、俺たちだって口に合うものを食べたいってのに全く困ったもんだぜ』
もしゃもしゃ
『その割にはよく食べるのねー?』
『ほら、それはそれ、これはこれっていうか?お前も食えよ、引き締まっているっていうより瘦せ細ってるじゃねぇかその体』
『……あの詰め込まれるの嫌い』
『窮屈だよな、走れないし』
『そう!もう二度と乗りたくない!!!!!!!』
『乗らなかったら日本に帰れないからな、あと1回は諦めろ』
『……つらい』
『ほら元気出せって、草でも食ってさ』
もしゃ、もしゃもしゃ
もしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃ
並んで食べる俺ともう1頭、俺に促されさきほどより草を食べている馬を見て厩務員が感動!といった感じの目をしている。
そうそう俺は話しを聞いてガレた馬には食べるように誘導できちゃうスーパービューティーホースなわけ、そんなスーパービューティーホースには特別においしいオヤツとか……ないか。
まあ仕方ないってのもわかるんだけどな、飼料ってなると日本からの輸出、ドバイへの輸入なんて制限があるのかもしれないし、水だって当然違うし。
味が変わっても別にまずいってほどじゃないわけで、ただ俺はひょろさん厩舎のめちゃうまご飯に慣れ切っているから、正直つらい。
つらいからいっぱい食べよ……。