第二章 Mad Hatter
アリスはよく叫びますね。
…ってことで、今回も叫びますよー!
今回、前回予告していた人登場です。
変人な帽子屋です。
「おはよ♪」
目覚めてすぐ、自分の上に知らない人の顔があって。
しかも挨拶されたらどんな反応をするだろう。
ちなみに私は、乙女とはとても思えないような叫び声を上げた。
「ぎぃやゃぁあぁあああああああああああ!!!!!」
実際、きゃー!よりぎゃー!の方が出やすいのよ。
ちなみに、私の叫び声を聞いた彼は少々困った顔をする。
そして特徴的な…でもとても綺麗な声でこう言う。
「そんなに驚かなくてもねぇ…」
いや、驚くでしょ普通!
私は、ベッドの傍の椅子に座りニコリと笑う彼を見た。
トランプや薔薇などの装飾があるシルクハット(シルクハットといっても、布のカラーサンプルが縫いつけてあったり、王冠や宝石などの飾りがついた針が刺さっていたりする)をかぶり、お洒落な黒い上着のポケットから紫の布がはみ出てて、その下からレースのついた白シャツ、その上に羽織るベストが見える…。
首に巻いているのは、金の縁取りがきれいな紫色のスカーフだった。
何か、マンガとかアニメにしか出てこなさそうな人だ。
黒い髪が混ざった濃いめの金髪はクセ毛で、眼はとても綺麗なエメラルドグリーン。
ここまでは…まぁ、普通だろう。
しかし、一番私の目を引いたのは服装でも髪の色でもなかった。
それは…顔全体に白粉を塗ったり目の周りや唇などを黒く塗っていること。
要するに、メイクだ。
世界中探しても、男性でこういう人は少ないと思う。
「それよりも、ここはどこ!?」
がばっと起き上がり、周囲を見回す。
変わった模様の天井、チェス盤のような床、そして見たこともない家具…
「もしかして誘拐!?」
だとしたら相当危ないぞ、自分。
「違う。私は君を助けてあげたんだよ〜?」
「え…?」
「君はね、殺されかけてたのさ。」
…ハイ?今なんつった?
「だーかーらー、君は殺されかけてたの。私が助けなかったら今頃消えてたんだよ?」
声には出していないのに、彼は見事に答えてくれた。
「まぁ、君が助かって良かったよ。」
「あの…私、森で頭ぶつけたっきり記憶がないんだけど…。」
「あぁ。君、ドラゴンに追いかけられてたでしょ?彼はジャバウォックっていう名前なんだけど、タルジイの森の暴れん坊でねぇ。私が追い払っておいたから心配しなくていいよ〜」
そう言って、彼はニコニコと笑った。
この人、いい人なのかな…。
いや、助けてくれたんだからいい人だ!
私はそう断定し、ベッドから降りた。
そんな私に、彼は心配そうに声をかける。
「もう大丈夫なの?頭痛とか…」
「うん、大丈夫。頭も痛くないし。助けてくれてありがとう!」
「そう。なら良かった。」
笑顔の彼は椅子から立ち上がり、枕元からダガーを取り出した。
…え。何でそんな危険物がここにあるのさ!
ちょちょ…枕元に刃物があるってどんな世界だ!
自分、危なし!
めちゃくちゃ焦っている私をよそに、彼はその危険物を一振りして長い剣に変え、腰から下がっている鞘に納める。
そして私の手を取り、こう言った。
「お帰りアリス。やっと帰ってきてくれたねぇ。君を待っていたんだよ〜。」
突然、久しぶりに会った友人って感じで言われた。
驚いた私は手をぶんぶん振りながら答える。
「え…?でも…私ここに来た記憶なんてないし、そもそもあなたの事も知らないよ。」
すると、彼は「あれぇ〜?」とか何とか言いながら私の顔をまじまじと見つめる。
「でも、私の記憶には君の姿がしっかり残ってるよ〜?」
「人違い…じゃなくて?」
「確かに、君だよ?…ただ忘れてるだけかもねぇ。まぁ、そのうち思い出すよ。それまで、色々な場所を旅しようね。」
彼は笑顔を崩さずにそう言った。そして、カーテンを開けながら付け加える。
「自己紹介は必要?」
自己紹介…か…。
もしかすると、何か思い出すかも。
お願いしよう。
「うん…お願いします」
「私はラスフェル・ヴェルゼ・ブラックソーン。通称、イカレ帽子屋さ。これから、君の案内役を務めるよ。」
「案内役?」
「そ。君は久しぶりに帰ってきたんだし、忘れてる事も多いでしょ?」
彼はそう言いながらニコッと笑う。
「旅…?」
「そう。みんな、君を待っているんだよ。早く会いに行ってあげないとねぇ。」
帽子屋は少し嬉しそうだった。
――この世界を救いに、旅に出よう。
ルイスが描いたこのワンダーランドは、美しく素晴らしい、危険な世界。
ここで生き残る為には正気ではいられない。
さぁ、数々のワンダー(不思議)が貴方を待っている。
ようこそ不思議の国へ。
そして…
おかえり、アリス。
帽子屋は、この格好(メイク有り)のまま平気で街中を歩き回ったりします。
物凄く人目を引くんだそうな。(当たり前