偶然の出会い 【月夜譚No.326】
退屈なパーティーだ。
グラスに口をつけ、彼女はそっと息を吐き出した。このシャンパンも、大して美味しいとは思えない。
一応ドレスを着てヘアセットをし、メイクも念入りにしてきたが、会社の行事ともなると心はちっとも動かない。取引先の人間も来ているから本当は挨拶をして回らなければならないだろうが、それは他の社員に任せよう。
誰かに声をかけられるのも面倒だと思い、彼女はこっそり会場を後にした。一度顔は出したし、何か言われたら具合が悪くなったと言っておこう。
ホテルの廊下を歩き、テラスに出る。手摺りに近寄ると眼下に街の夜景が見え、夜風が心地良く頬を撫でる。
「おや」
声がしてそちらに顔を向けると、スーツ姿の男性が缶コーヒー片手に立っていた。彼女はその場から立ち去ろうとしたが、彼に引き留められる。
成り行きで彼と少し会話をし、それを楽しいと思う自分に驚いた。
パーティー会場に戻った彼女は、また彼に会えはしないかと密かに願った。