帰還
── 痛っ!
久しぶりにダンジョンから出た僕は、肌を刺すような痛みに襲われていた。上を見れば、燦々と輝く太陽。もしかしてこの痛みの原因日光?だったら……。
僕は魔術を発動し、虚空から一枚の外套を取り出し、それを羽織る。日光が遮られ、痛みがなくなる。これで一安心かな。
するとミリアが立ち止まり、
「あれ?おーい、ノア君〜?どこ行っちゃったの?」
という。
「ここだよ?」
「なんか声だけ聞こえる!?」
もしかして、見えてない?そう思った僕は外套のフードを取り、「ここだよ。」という。
「うわぁ!びっくりした!いつからそこにいたの?」
「さっきからずっといたけど……。」
「嘘だぁ。」
「本当だって。」
そう言い、フードを被る。
「あれ!?またいなくなった!?」
その反応を見て、僕は確信する。なんでかはわからないけど、この外套を身に付けてると相手がこっちのことを認識できなくなるらしい。
そのことを伝えると、ミリアも試してみたいと言い出す。そこでこの外套を貸してみたんだけど……。
「どう?」
「うーん、普通に認識できるね。」
「えー……。なんでだろ?」
「うーん……。」
そこで僕はとあることに思い至り、こう言う。
「ちょっと、それ着た状態で外套に魔力流してみてくれない?」
「?わかった。それじゃあいくよ?」
次の瞬間、ミリアが目の前から消える。いや、よく視てみると、魔力とか気配とか、体の外に漏れ出てるはずのそう言ったものが全く感知できなくなっている。
「なるほどね……。ありがとう、もういいよ。」
「どう?何か分かった?」
「うん。どうやらこの外套、MPを流すと認識阻害と気配遮断が発動するっぽい。僕、基本的に魔力を循環させてるから、それで勝手に効果が発動したっぽい。だから……。」
僕は魔力の循環を止める。
「これで大丈夫なはず。」
「うん。こっちでもバッチリ認識できるね。」
そんなこともありつつ、僕たちはいよいよとある建物に辿り着く。盾の形の旗に、交差する2本の剣の意匠。冒険者ギルドだ。
中に入ると、やたらとざわついていた館内がぴたりと静かになる。
「お、おいあれ……。」
「間違いない。『剣聖』ミリアだ。」
「ダンジョンでミノタウロスと戦ってたんじゃないのか?」
「まさか逃げて……?」
そんなヒソヒソと話す声が聞こえてくる中、僕たちの方に一人の男性が歩いてくる。髪には白いものが混じり始めているが、未だに衰えを感じさせないほどに太い腕。夜道で出会ったら子供が泣くんじゃないかと思うほどの強面の顔には、幾筋もの傷跡が走っている。この王国ではその名を知らない人はいない、元Sランク冒険者にして現冒険者ギルドチェブリス王国王都支部ギルドマスター、『剛腕』のグレン、その人だ。
「おう、ミリア!無事だったか!」
「ええ。何とか。」
「ところで、ダンジョン内に現れたって言うミノタウロスはどうしたんだ?」
「ああ、それならたまたま通りかかった彼が一瞬で倒しちゃいました。」
そう言って僕を示す。
「本当か?こう言っちゃあ失礼かもしれないが、こいつ、そこまで強いようには見えないんだが……。」
ザワッ!
「な、なあ。あんな奴いたか……?」
「いや……。少なくとも言われるまで気づかなかったことだけは確かだ……。」
「お、俺も……。これでも気配察知には自信あったんだけどなあ……。」
ん?なんか周囲が騒がしいような……?まあいいや。僕はグレンさんにだけ顔が見えるようにフードをずらすと、「僕です。ノアです。」と言う。
「!? ほ、本当にノアなのか……?しかしこの声と雰囲気……。間違いないな。」
「わかってくれて何よりです。」
「にしても、どうしたんだ?そんなに色が変わっちまって。それに俺、お前が死んだって報告受けてたんだが……。」
「その辺に関しても話しておきたいんですけど、ここだとちょっと……。」
「確かに周りの目も多いしな……。わかった。俺の部屋に来い。そこで話そう。」
「わかりました。」
「それじゃ、ついてこい。」
そういった後、グレンさんは歩き始める。周囲からの興味を一身に集めつつ、僕とミリアは彼についていった。
作者の葉隠です!初めての作品なので、至らぬところも多々ありますが、温かく見守っていただけると幸いです。もし気に入っていただけましたら、ブックマークと☆による評価を、よろしくお願いします。