脱出と再会③
── ミリア 視点 ──
「ちなみに、どんなことをやってたの?」
チームの中でいろんなことをやってたっていうノア君に、私はこう聞いてみた。すると、
「うーん、そうだなぁ……。まず索敵でしょ、それにマッピングとトラップの解除、モンスターの足止めに荷物持ち、MPが足りなくなったら譲渡して、モンスターのヘイトも取ってたかな。」
と答える。
──正直、ありえない。普通それだけのことをやろうとしたら、斥候と荷物持ち、それにタンクがいないと成り立たない。それにしれっとMPの譲渡って言ってたけど、普通そんなことができる人はいない。どんなスキルを使うにも多かれ少なかれMPは使うから、普通余ることはない。なのにそれを譲渡するって……!ただ、ノア君が嘘を言っているとは考えにくい。嘘だとしたら突拍子もなさすぎるし、何よりノア君の目が嘘ではないと物語ってる。
……実はノア君、嘘をつく時って目が上の方を向くんだよね。でも、今はまっすぐこちらを見て話してた。だから本当なんだろう。
だとしても、1人でそんなことをしてたなんて、ノア君のいなくなった後のあのパーティー、ちゃんとやれてたんだろうか?
まあ、いいや。それよりも今は、聞いておきたいことがある。
「ノア君はさ、ここから出たら何がしたいの?」
「うーん、そうだなぁ。……正直、自分のやりたいことをやるって決めたはいいものの、いざ何をやるかって言われると、思いつかないなぁ。……あ、でも、一つやりたいことはあるかな。」
「ちなみに、それって?」
「あの時の約束を果たすこと。」
── 約三年前 ──
雪の春とある日のこと。ノアはミリアに呼ばれ、町外れの丘にいた。
「どうしたの?こんなところに呼んで。」
「実は……。私、親の仕事の都合で1年くらいこの王都を離れることになっちゃったんだ。」
「え……!」
「でも安心して!絶対!絶対1年で戻ってくるから!」
「じゃあ、約束してくれる……?1年後、もし覚えてたら、一緒にパーティーを組んで、世界中のいろんなところを巡ってくれるって。」
「うん!絶対、一緒に巡ろう!……それで、パーティーの名前はどうするの?」
「そうだな……。うん、これがいい。パーティーの名前は──」
「パーティー”雪下の誓い”として、世界をめぐることだよ。」
ドキッとした。まさかあの約束を覚えてたなんて思わなかった。
……そんな顔で言うなんて、やっぱりノア君はずるいや。でも……そんなノア君だから、私は好きになったんだけどね。
── ノア 視点 ──
あれ?ミリア、僕のやりたいことを聞いたらなんか立ち止まっちゃった。それに若干顔も赤いし……。何かあったのかな?
「ミリア?大丈夫?」
「あ、うん。大丈夫!そんなことよりほら!出口だよ!」
見れば、ダンジョンから出るための最後の階段、すなわち外へ続く階段がすぐそこにあった。
階段を登りつつ、僕はこのダンジョンに思いを馳せていた。思えば、このダンジョンのおかげで、僕はここまで変わることができた。もしここがなかったら、どこか別の場所で、自分のことを知ることなく死んでいたかもしれないと思うと、このダンジョンに対する感謝のような気持ちが湧き上がってくる。
かなりの時間をここで過ごしたこともあって、ここから出ることに若干の不安を感じていると、
「大丈夫!何かあっても、私がいるから!」
と、隣のミリアが声をかけてくれる。
僕は、もう一人じゃないんだ。
そのことを噛み締めつつ、僕は外へ、これからの未来へと、一歩を踏み出した。
いやー、『無能』と言われていたノア君でしたが、実際は誰よりも仕事をしてましたね!そりゃああれだけのことをしてたら他のことには手が回らないでしょうね……。
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