出立
新章開始!
「それじゃあ、気をつけていってらっしゃい。」
「行ってきます。」
父さんの声を背に受けながら、僕はシスト家の家紋のついた魔導車に乗り込む。中ではミリアとトウカが既に座っていて、話に花を咲かせていた。そして、2人の間ではヒョウカとリッカが寝息を立てている。
── ヒョウカとリッカは、前に僕が戦ったフェンリルの子供たちだ。ヒョウカは青みがかった、リッカは白みがかった銀色の柔らかな毛並みをしている。なんでも、僕の中に残ってる母親の気配を頼りに僕のいる街までたどり着いたけど、そこで体力がなくなっちゃったらしくて、悪い冒険者に捕まりそうになってたんだよね。で、たまたま通りかかった僕が助け出して、今に至る感じだ。お兄ちゃんであるヒョウカは比較的活発で、妹のリッカはヒョウカについていくことが多い。2匹とも可愛くて、シスト家の新たな天使とかって呼ばれてるらしい。
「よろしくお願いします。」
僕は後ろの皆の迷惑にならないよう音もなく助手席に座り、運転を担当してくれるヴィルさんにそう声をかける。
「お任せください。できる限り安全運転で行かせていただきます。」
僕の言葉に、ヴィルさんはそう言って微笑みを浮かべる。
そして、忘れ物がないことを確認し、僕たちを乗せた魔導車は音もなく発進する。行き先は、学術都市ラピズの、総合学園だ。
「行ってきまーす!」
魔導車が動き出したことに気づき、トウカは窓から身を乗り出して後ろを見ながら、そう言って大きく手を振る。
「トウカさん、身を乗り出しすぎちゃ……。」
「別にお兄ちゃんの結界があるから大丈夫なんだけど……。」
そんなトウカの行動にミリアが少し控えめに注意をすると、トウカはそう言いつつ体を戻す。
── そう、実は僕、結界魔法を習得したんだ。色々と使い勝手がいいからいつか習得しようと思ってたけど、まさかうちの書斎に結界魔法のスキルの書があるなんてね……。あれ、大分高いんだけど……。……まあ、助かったからいっか。
「でも、本当に良かったの?私も乗せていってもらっちゃって……。」
僕がそんなことを考えていると、ミリアがどこか不安そうにそう聞いてくる。
「?王国と帝国、ラピズから許可は出たわけだし、別に問題ないと思うけど?」
「でもさ……やっぱりシスト公爵家と私の家みたいな木端男爵家が一緒にっていうのは……。」
「気にしなくてもいいと思うよ。他の方ならともかく、ミリアさんはAランク冒険者として十分に活躍してるからね。」
「でも、私は王国の貴族で、2人は帝国の貴族じゃん?変に勘繰る人がいてもおかしくないと思うんだけど……。」
「気にしすぎだって。僕たちが一緒なのは新しいプログラムの一環だからだし、変に勘繰る人はどこにでもいるから気にするものでもないしね。」
「そうそう。……こんなことを言うのもあれだけど、そもそも私たちって注目されてるしね。」
「……それもそうだね!」
僕たちの言葉に、ミリアも吹っ切れたようにそう言って、笑みを浮かべる。
── 実は僕たちは、学園で試験的に実装される新しい取り組みに参加することになってるんだ。その内容は、特に優秀な生徒を集めた、所謂"特進クラス"を作るというものだ。
本来、総合学園のクラス分けは各生徒の所属する国に基づいて行われている。もちろん他の国の人とのコミュニケーションを取る機会もあるけど、基本的には同じ国の人同士で過ごすことになる。それに加えて、教える内容が画一的なせいで、人によっては授業内容に追いつけない、もしくは簡単すぎてやる意味がないっていう状況になっちゃうことがある。だから、その問題を解決するために導入されたのが、"特進クラス"だ。
その内容としては、特に優秀な生徒を国の壁を超えて集めて、他のクラスより進んだ内容を教えるというものだ。この取り組みの狙いは、国境を超えた連携を形成すること、そして才能をより育てることだ。その実証実験として僕やミリア、トウカみたいな既に活躍してる人たちを集めたクラスを作ってみることになったんだ。
「……それに、勘違いされるならされたで都合がいいですし。」
「?何か言った?」
「ううん、何でもないよ。」
僕がその経緯を思い出していると、トウカが小さく何かを呟く。うまく聞き取れなかった僕が聞き返すと、トウカはそう返してくる。
「それより、ノア君は先生の仕事はどうするの?」
「ああ、それなら大丈夫だよ。ちょうどいいスキルがあったからね。」
「本当?」
「うん。向こうに着いたら見せてあげるから待っててね。」
「分かった。」
そんなことを僕たちが話している間にも、魔導車は街道を進んでいく。
「── えーっと、この後は……。」
「確かもう1人を途中で拾って、それから学園だね。確かこの辺りで ──」
その瞬間、僕たちの乗る魔導車を轟音と共に衝撃が襲う。その音に飛び起きたヒョウカとリッカを宥めつつ、ミリアとトウカは周囲を見回す。しかし、いつの間にか魔導車の周りに展開されていた岩のドームのせいで、周囲の状況を窺うことはできない。
「何事?」
「分からない……。けど、一応無事みたい。……状況が分からない以上、下手に動くのは危ないかな。」
そんな2人の言葉を小耳に挟みつつ、僕は周囲の気配を探る。
── さっきまで展開してた探知に引っ掛からなかったってことは、かなり気配を消してたか探知の範囲内にいたかだけど……この規模の魔法を展開した以上、範囲外にいたって線が濃厚。なら、探知範囲を広げれば……。
「── 見つけた。行ってくる。」
「え?ってノア君!?」
「ちょっと待 ──」
探知範囲を広げたことで魔法を発動したと思しき気配を見つけた僕は、言葉少なにそのことを伝え、転移する。
作者の葉隠です!初めての作品なので、至らぬところも多々ありますが、温かく見守っていただけると幸いです。もし気に入っていただけましたら、ブックマークと☆による評価を、よろしくお願いします。




