四神の箱庭 ⑤
「それでさぁ、そいつらなんて言ったと思う?「……やはり、その力は俺のパーティーにこそふさわしい!」だよ!?」
「うわぁ……。」
「しかもその後もしつこくついてきてパーティーに加入するよう言ってくるしさぁ……。」
「絶対会いたくないなぁ……。僕も同じようなこと言われそうだし……。」
コハクと友達になって数十分後。僕とコハクは、ちゃぶ台を挟んで座り、お茶とお菓子を食べつつ楽しく話をしていた。
── え?何があったかって?実はコハク、ちょくちょく僕たちが暮らす世界の観光をしてるみたいで、その時にあったことを話してくれたんだけど……。……それがまあ、凄く身に覚えのある話ばっかりでね。お互いに愚痴る相手を見つけかねてたこともあって、気づけば仲良くなってたんだよね。
「あ、そうだった。これ渡さないと。」
そう言いつつコハクは、どこからともなく一振りの刀を取り出す。
── その刀は、ほのかに紫がかった刀身の、一目で業物とわかる刀だった。その刃は研ぎ澄まされており、指が触れただけで切り飛ばされてしまいそうな錯覚を起こさせる。
「これは……?」
「"神賜刀・琥珀"。僕の作った最高傑作だよ。」
その刀の美しさに目を奪われつつ僕がそう聞くと、コハクはそう答えを返す。
「本来ならノアの家に伝わってたんだろうけど……色々あってしばらく修理することになってたんだよね。で、修理してる間にこの刀を使える人がいなくなっちゃって、ここで死蔵されてたんだよ。」
「……あー、ミナスの分家の方か……。」
その言葉を聞き、僕は納得する。代々ミナスの分家に伝わる刀があったっていう文献があったけど、これが。
「はい。」
コハクはそれを鞘にしまうと、僕に手渡してくる。
「えっ!?こんなの受け取れないよ!せめて分家に……。」
「いいの。どうせ他の子孫たちには使えないし。」
「でも……。」
「ノア。この刀は、運命を、世界を変えうる力を持ってる。いい方向にも、悪い方向にもね。……悲しいけど、その力を正しく使えるような人は君以外にはいないんだ。それに、多分|"琥珀"《これ》は、未来の君の助けになると思うしね。」
僕がそう言って刀を受け取るのを拒もうとすると、コハクは真剣な顔になりそう言う。
「……僕なんかで、本当にいいの?」
「うん。」
「……分かった。」
僕の問いに、僕の目をまっすぐ見つめながら即答したコハクの姿を見、僕はその刀を受け取ることを決める。
【確認しました。"神賜刀・琥珀"の契約者となりました。それにより、一部ステータスが上昇します。】
そして琥珀を手に取ると、頭の中にそんなアナウンスが流れる。
「……うん。ちゃんと契約できたみたいだね。……今度は、あいつの思うようにはさせない……。」
その声に少し驚いた僕を見、コハクは満足そうに頷く。そして何かを言ったようだったが、うまく聞き取ることができなかった。その内容を聞こうとしたところで、僕たちの周りに白い光が舞い始める。
「これは……?」
「ここにいられる時間がもう短いことを知らせてくれる機能だよ。……あ、そうだ。」
そう言うとコハクは、懐からペンダントを取り出す。深い紫色の紫水晶の嵌った、細かな意匠のペンダントだ。
「これも渡しておくね。それに魔力を流せば、またここに来れるから!」
徐々に白く染まってゆく視界の中、そんなコハクの声を最後に聞き、再び転移の魔法が発動するのを感じるのだった。
── コハク 視点 ──
「……うん。ちゃんと渡せたみたいだね。」
僕はノア君が四神の箱庭・最奥の間へと戻ったことを確認して、一人そう呟いていた。
「"琥珀"も渡せたし、これでしばらくは安心かな。……ユーリ君の時はダメだったけど、ノア君は……!」
1,000年前のとある出来事を思い出し、僕は悔しさで歯を食いしばる。あの時は後手に回っちゃったせいで彼を喪うことになっちゃったけど、今度はそんな下手は打たない。これ以上僕の子孫に手を出させるつもりはないからね。
「……でも、楽しかったな。」
次こそは必ず守る。僕はそう決意を固めつつ、さっきまでの会話を思い出し、笑みを浮かべる。
「ああして話すのは300年ぶりくらいだったけど、やっぱり人と話すのは楽しいね。……久しぶりに散歩してみようかな……?」
僕がそんなことを考えていると、背後に3つの気配が出現する。
「そっちはどうだった?」
僕がそちらを向くことなく問いかけると、三者三様の答えが返ってくる。
「吾の方は、まだ鍛錬が足りぬ。あと20年ほど頑張れば、といったところだな。」
「儂の方もじゃ。」
「妾の方は、一部だけ権能を預ける形になったの。やはり双子ということもあってか、兄に引っ張られて順調に強くなっているようじゃ。」
「ふーん。そうなんだ。ちなみにどの権能?」
「治癒と蘇生じゃ。」
「へぇ。なかなか大盤振る舞いじゃん。」
「お主ほどではないがの、白。お主、あの刀を渡すついでにほとんどの権能を預けたじゃろ。」
「まあ、彼の場合はあいつに目をつけられてるみたいだったからね。……まあ、ちょっと預けすぎたのは事実だけど。」
「はぁ……。複製権能だからよかったものの、耐えられなかったらどうするつもりじゃったんじゃ?」
「耐えられる確証があったから預けたんだよ。青と玄の渡した剣と盾の詳細、鑑定できたみたいだったからね。」
「なんと!あの歳でそこまで至ったか!」
「ふぉっふぉっ。それなら納得じゃな。」
僕の言葉に、青と玄は驚いた様子だ。
「まあ、しばらくは見守ってるよ。」
── もしかしたら向こうで直接になるかもだけど、ね。
僕は3柱に向き直り、心で小さく付け加えつつそう言うのだった。
作者の葉隠です!初めての作品なので、至らぬところも多々ありますが、温かく見守っていただけると幸いです。もし気に入っていただけましたら、ブックマークと☆による評価を、よろしくお願いします。




