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宵待月に桜は踊る  作者: 葉隠真桜
第二章
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四神の箱庭 ④

── ノア 視点 ──

「ここは……。」


像に手を触れ、見慣れぬ空間へと転移した僕は、周囲を見渡しながらそう呟く。


「"鑑定"。……駄目か。」


鑑定スキルを発動しながら周囲を見ても、何の情報も得られない。


── となると……このダンジョンを作った上位存在の仕業かな……。


そんなことを考えていると、目の前に半透明の板が出現する。


「なになに……"試練開始"……?」


そこに書かれていたのは、試練開始の一言のみ。それを思わず口に出して読んだ瞬間、周囲の空気が一変し、どこからともなくモンスターが出現する。


「ありゃ、やっちゃった……。……とりあえず、生き残れば良さそうな感じだけど……別に、全員倒しても問題ないよね?」


そう独り言を呟きつつ、僕は風流を抜き放つ。そして、


「桜花流刀術、一式改・桜花斬り・旋。」


そのまま周囲を薙ぎ払うように風流を振るい、出現したモンスターを一掃する。


【第1波攻略。一分後に、第2波が開始されます。】


すると、どこからともなくそんな声が聞こえてくる。


── なるほど、そういう形か。……ここ最近、僕自身どこまでやれるか分からなくなってたし……ちょうどいい。


「やれるところまでやってみようかな。」


僕は一人そう呟くと、モンスターたちの襲来に備え、意識を研ぎ澄ませていくのだった。


── 数時間後 ──


「五式・八重桜!」


【第99波攻略。これにて、試練終了となります。お疲れ様でした。】


僕が八連撃を目の前の地竜に放ち、地竜を討伐すると、そんなアナウンスが流れてくる。


「終わった……!」


そのアナウンスを聞き、僕はそう声を漏らしつつ床に大の字に寝転がる。


── まさか、皇帝(エンペラー)モンスター全討伐に、竜種一斉討伐までやらされるとは……。……正直、記憶が戻る前だったら厳しかったかもなぁ……。


僕はここまでに戦ったモンスターのことを思いしゅたつ、苦笑を浮かべる。


── でも、今の実力の確認もできたからしゅたでどこまでやれるか判断できるようになったから、悪いことばっかりじゃなかったんだけどね。それよりも……。


「これで試練が終わったみたいだけど……結局何の試練だったんだろ?」


誰もいない空間で僕がそう呟くと、突然目の前に一つの人影が出現する。


「君が今回の踏破者かな?おめでとう。」


その人影は、見た目に反さない、中性的で可愛らしい声で僕のことを祝福してくれる。


── 短く整えられた純白の髪に、紫水晶(アメシスト)のように透き通った紫色の瞳。どこか懐かしさを感じる中性的な顔立ちの彼(女?)は、虎の耳を頭から生やしていた。


「あなたは?」

「僕はコハク。一応さっきの試練の判定をやらせてもらってるんだ。……あ、先に言っておくけど、僕は男だからね。」

「あ、分かりました。……ところで、なぜ人の姿を?」


僕がそう聞くと、


「あ、気付いてたんだ。」


コハクと名乗った少年は面白そうにそう答え、次の瞬間、巨大な白虎へと姿を変える。


「……こっちの姿だと、さっきの試練の続きだと思われて襲われることが多くてね……。」

「あー……。」


どこか困ったように言う彼の言葉に、僕は納得の声をあげる。僕の場合はまだ余裕はあったから良かったけど、確かに普通の人だと冷静に判断できるほどの余裕は残ってないか。


「それよりも……。……改めて、「四神の箱庭」の試練の突破、おめでとう。」

「ありがとうございます。……ちなみにあの試練って何だったんですか?」

「あの試練は、どれだけ僕の力を与えられるか確認するための試練だね。」


僕の問いに、コハク様はそう答える。


「あの試練で能力的にどこまで与えられるかを調べた後、こうして僕が話して、実際にどこまで力を与えても問題なさそうか判断するんだ。」

「なるほど。」

「その点、君は今までの挑戦者とは一線を画してるね。試練を完全攻略したのも君が初めてだし、人柄的にも問題はなさそうだしね。流石は僕の子孫。」

「……そう言っていただけるとありがたいです。」


そのまましれっと告げられた言葉に、僕がそう返すと、コハク様はどこか虚をつかれたような表情を浮かべる。


「あれ?驚かないの?」

「ある程度は予想していたので。」


── 実は昔、家紋の由来が気になって調べたことがあるんだよね。その結果分かったのが、大体1,000年前くらいに家紋が変わったこと。それまでは藤の花に二本の剣の意匠の家紋だったんだけど、大体1,000年前に本家の跡継ぎがいなくなっちゃったみたいで、ミナス公国の方にあった分家の人が当主になったらしいんだよね。で、分家(そっち)の家系を遡っていくと、神格化された白虎族に行き着いたんだ。だからあの像を見たときにこの可能性には思い当たっていたんだよね。


「へえ……。……君のこと、ますます気に入ったよ。……そうだ!君、僕友達になってくれない?」

「友達、ですか?」


そんなことを考えつつ僕が答えると、コハク様は不意にそう提案してくる。


「うん。……正直、ここでこうして試練に来る人を待ってるのも暇でね。そもそも挑戦資格を持ってる人が少ないし、持っててもあんまり気が合いそうにない人が多かったからね。」

「……まあ、そうでしょうね。」


なんせ、「聖」の天賦(ギフト)を持ってないと挑戦できないんだからね。それに、強者っていうのはたいてい一癖も二癖もある人物だし。


「その点、君なら仲良くなれそうな気がしたんだよね。性格的にも問題なさそうだし……何より、見た目も似てるしね。」

「あはは……。」


無自覚に言ったのだろうそんな言葉に少しダメージを受けつつ、僕は苦笑いを浮かべる。


「それで、どう?僕と、友達になってくれない?」


するとコハク様は、少しうるんだ瞳で、僕のことを上目遣いで見つつそう口にする。顔立ちが整っているだけに、その破壊力も凄まじいものになっている。


「……そんな顔されて、断れる人なんていないですよ……。」

「!てことは!」

「はい。僕なんかでいいのでしたら。」

「やった!」


ため息交じりに僕がそう言うと、コハク様は見た目通りの少年のように喜びを爆発させるのだった。


────────────────────

ちなみに、ノア君も無自覚に同じようなこと(うるうるおめめ+上目遣い)やってます。

「あれは……もはや兵器だよ……。」(ミア談)

「下手すれば人死にが出る。」(グレン談)

作者の葉隠です!初めての作品なので、至らぬところも多々ありますが、温かく見守っていただけると幸いです。もし気に入っていただけましたら、ブックマークと☆による評価を、よろしくお願いします。

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